第27話・騙し合いー3

 年配の方の白衣の女が、洋子の前にしゃがみ込み、椅子に座ったままの洋子の両頬に手をあてがうと、目の下に親指を付けて、引っ張った。


 その後ろに若い方の白衣の女が立ち、右手を洋子の肩に触れた。


 最初に気が付いたのは、冬人だった。

「香川さん、逃げて!」


 次いで、壮太も気が付いた。

「誰か、その二人を取り押さえろ!」


 冬人が気付いたのは、二人の胸元だった。

 この二人は、T字型のピンバッチを付けていない。


 壮太の方は、その見覚えのある白衣だった。

 これは、この学校の理科の先生が着ていたものじゃなかったか。


「ちぇっ、もうばれたか」

 洋子の後ろに立っていた女は、その死角に突き立てていたナイフを振り上げると、

 そう吐き捨てた。


「行くよ」

 年配の方の女にそう言うと、二人はすぐにドアから廊下に逃げた。


 すぐそばに座っていた内山正治うちやままさはると、菅野鈴子かんのすずこが後を追った。

 壮太も後に続き、冬人は反対側のドアから廊下に出た。


 その二人は、廊下を出てすぐ、ロッカーに飛び乗ると、窓から飛び降りた、ように見えた。


 冬人は出てすぐの窓を開けて外を覗き込んだ。


 正治は、後を追うように窓に身を乗り出した。


 そこには、どこから調達してきたのか、長めの梯子はしごが掛けられていた。

 すぐに後を追おうと、正治まさはるはロッカーに飛び乗った。


「待って!」

 冬人の声に、正治が怒鳴った。

「なんで止めるんだよ!」


 下を見ろという仕草で、冬人は下を顎でしゃくって見せた。


 正治が下を見ると、既に二人は下に降りた後で、何故か逃げることなくその場に立っている。


「あいつら、誰かが降りようとしたら、そのまま梯子を外して突き落とす気だ」

 たかだか二階からとはいえ、そんな所から落ちらた無傷では済まない。

 いや、それだけで済めばまだいい。


 そんなところで、全身を打ち付け、動けなくなどなったら、それこそ下にいる二人の思うつぼだ。そのまま年齢を奪われるのは間違いない。


「ちぇっ、余計な事を」

 若い方の女は、冬人を睨みつけた後、その場から逃げ出した。

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