第26話・騙し合いー2

「どういうことだ」

 宗史そうしも、人殺しまでしたことは流石にない。これには動揺を隠せなかった。


 突然、それまで椅子から微動だにしなかった転校生の赤司あかしが、ゆっくりと立ち上がると、並樹なみきの元に向かっていった。


「どいて」

 そう言って赤司は、全身を震わせている宗史を横に少し押しやると、並樹の前にしゃがみ込み、脈を確認しながらその顔を覗き込んだ。


「がん‥‥‥おそらくは肝臓がん、かな」

 その声に反応するかのように、遠くから女の声が聞こえた。


「その子は、早いうちにがんを発症する運命だったようね」

 赤司のその言葉に、何の疑いもなく女は言った。

 そう、これもまた運命の、いやDNAに組み込まれた現実でしかない。


 その事実は、百歳奪うことなく、相手の命を絶つ事もありうるという現実を突きつける事になった。


 と、同時に謎の転校生を更に謎めかす結果ともなった。この歳で、なぜそんな事が分かるのか。医療専門の高等学校など、聞いた事もない。


「お、お前なんで」

 そんな宗史の言葉を、赤司はすぐに遮った。

「今はそんな事話してる場合ではないでしょう」


 その言葉に反応したのはかいだった。

「そ、そうだよ。もうこれは始まってんだ。こうしてる間にも相手がこちらに向かってるかもしんないんだぞ」


「海、てめえ」

 宗史はすごんだが、海の言葉は止まらない。

「これ以上仲間が減ったら、こちらが不利なだけじゃないか」


「なんだと!」

 その言葉に、宗史はキレた。

 目の前で修がいなくなった事より、自身の保身の事しか考えてない海が許せなかったからだ。


 海の元に駆け寄ろうとした宗史を、教室の後ろのドアの開く音が静止した。


 全員が一斉にそちらを向くと、そこには足首まである白衣を着た、二人の女性が立っていた。


「これから皆さんの健康チェックをしますので、席にお付きください」

 二十代後半と思しき女性の方がそう言った。

 もう一人、四十代前半位だろうか、大人しそうなその人は、下を向いたまま無言で立っていた。


「健康チェックって、今更何のために」

 壮太がそう問うと、若い方の女が答えた。

「これから競技を行う皆さんに、突然死されたら困りますので」


「何言ってんだ、こっちはもう既に二人死んでんだぞ!」

 悲しげに叫ぶ宗史に、それでも白衣の女性は冷静だった。

「それは、お気の毒ですね」


 その言葉に怒りのあまり声の出ない宗史。

 しかしそんなことはお構いなしに、その二人は一番近くにいた香川洋子かがわようこの傍らに立った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る