第25話・騙し合いー1

 そんな並樹に歩み寄ってきたのは、修の取り巻きの三人衆の内の二人、高梨淳たかなしじゅん真壁康孝まかべやすたかだった。


 並樹はすぐに身構えたが、二人の言葉は意外なものだった。


「待て、勘違いするなよ」

「俺達は寧ろ感謝してる位だぜ」

 その言葉に一番驚いたのは、取り巻き三人衆の一人、森田宗史もりたそうしだ。


 二人は宗史の方を一瞥すると、さらに並樹に近付いた。

「俺達もあいつが怖くてさぁ、逆らえなかったんだよな」

「でもこれで、俺達も自由だよ」


 宗史は驚きを隠せない。

「何言ってんだ、お前等!」

 まさか二人がそんな風に修の事を思っていたなんて、知る由もなかったからだ。


 修と宗史は昔から仲が良かった。

 ただ、対等な立場を崩さない修と違い、その強さに憧れていた宗史は、敢えて下っ端というスタンスを崩すことなく接していた。


 ほかの二人もそうだと思っていた。


「ゆ、許さねぇ‥‥‥お前等全員許さねぇ‥‥‥」

 肩を震わせながら俯いたかと思うと、宗史は顔を上げ、淳の元に駆け寄った。


 淳は後退りながら、

「お前だってそうだったんじゃねえのかよ」

と言って、その両腕で顔を覆った。


 拳を握り、大きく振り被った宗史の左手を掴んだのは、並樹だった。

「止めろよ。天木に迷惑していたのは、僕だけじゃなかったってだけの事じゃんか」


「ふざけんな!」

 確かにここに居る者達は、迷惑な修しか知らないだろう。

 だが、宗史は知っていた。


 修が二年の時、一年からカツアゲしようとしている三年に食って掛った事。

 捨てられた子犬を見掛けて、ついさっき買ったばかりの大好きな待田まつだのコーヒー牛乳を分け与えてあげた事。

 絶対に同級生には見せない、その優しい微笑を、宗史だけは知っていた。


 宗史は、並樹に自分の手にしているナイフを突き立てた。


 それは無意識の行動だった。


 その手に武器を持ち、目の前に逆らう者がいる。普段から行っている行動の一環でしかなかった。


 時間にして一秒と掛からなかった。


 並樹の顔はどす黒く変化し、苦悶の表情を浮かべたまま、目を見開いてその場に倒れた。呼吸も止まっている。


 宗史のナイフは『5』と表示されている。

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