第24話・予想外の伏兵ー12
「あれ? あれ?」
相変わらず甲高いままの奇声を、修は出し続けた。
教室の前の方から、その女の声が響き渡る。
「そのナイフ、本人にしか使えないから」
全員が女の方に顔を向けたが、すぐに修の方に戻す。
「聞いてねぇぞ、んな事!」
女の方を睨んで叫ぶ修から、並樹はゆっくりと、刃の部分に「枕元並樹」と刻まれているそのナイフを取り上げた。
「残念なのは、君の方だったね」
並樹は今、一瞬とはいえ、修に同情してしまった自分に後悔した。
「もう止めて!」
誰が発した声なのかは分からなかったが、それは修を憐れんでの言葉ではなく、ただ単に目の前でこれから起こる惨事を見たくないという程度の感情だった。
その程度の声ではもう、並樹の決断を揺るがす力はなかった。
誰もがこの後、修は殴る蹴るの暴行をうけるのだろう、その程度の想像しか出来ていなかった。だが、並樹はもっと残忍なある可能性を頭に浮かべていた。
並樹は、その暴走を止めようとする数人が、無言で歩み寄ってくるのを感じ、すぐに次の行動に移した。
並樹は、自身のナイフのLEDを再び赤に点灯させると、躊躇することなく再び修に突き立てた。
瞬間。
全員の目の前から修が消えた。
並樹のナイフは『2』を表示している。
しんと静まり返った教室。
少しして、香織があることに気付き、呟いた。
「ま、まさか、天木君‥‥‥胎児に‥‥‥」
その言葉に、皆が驚愕する。
修を赤ん坊にしておいてから嬲り殺すの気なのかと思ったからだ。
教師の席から立ち上がって、女が呟いた。
「理論上そうなるのは分かってたけど、この目で見るのは初めてだわ」
その言葉を聞いて、壮太が問い掛けた。
「天木は、どうなったんだ」
女は、その場には不釣り合いとしかいえない冷めた顔を崩さず答えた。
「受精直後の卵子にまで戻ったのです」
壮太は始めに確かに聞いた。
死の可能性について。
しかし、このような形で命を落とすこともあるとは、正に想定外の事だった。
並樹は、少し精神が壊れたかのように、小さく笑うと、あくまで冷静な女の方に大声で言った。
「これは、競技だって言いましたよね」
「はい、その通りです」
「じゃあ、その結果、誰かが死んでも、罪には問われないんですよね」
並樹がそこまで考えての行動だったのかは知る由もないが、女はそれにも、至って冷静に答えた。
「格闘技で、結果相手が命を落としても、罪には問われませんよね。それと同じと思って頂いて結構です」
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