第16話・予想外の伏兵ー4

 黒板の上にある時計が正確に時を刻んでいるのならば、あと十分で十時となる。


 女は目の前の教壇の下に手を突っ込むと、そこから黒い塊を取り出した。

 それは、スタンガンの様な形をしていた。


「これは、プロトタイプ1で使われていたものです」

 女は教壇を一歩降りて、もう一人のグレースーツの男の脇に立つ。


「よく見ていて下さい」

 そう言って、そのスタンガンらしきものを、ゆっくりとグレースーツの男に当てた。


 男は一瞬、電撃を浴びたかのように全身を震わせ、体を硬直させた。だが、女は止めることなく、そのままそれを押し付け続けた。


 二秒ほど押し付けると、女はそれを引き戻した。


 男の方は、倒れこそしなかったが、その場に跪き、少し苦しんでいる様に見える。


 しんとする室内。誰もが息を飲み、言葉を発することなくその光景を見ていた。


 すると・・・


 気のせいだろうか。男の顔が少しだけ黒くなっているように見えた。

 しびれが取れたのだろうか、男がゆっくりと立ち上がる。


 男は不敵な笑みを浮かべながら周りを見渡した。

 いや、見渡したというよりは、皆にこの顔を見ろと言わんばかりに向けたのだ。


 その顔は、先程までの若々しい十代のそれではなくなっていた。

 三十代、いや四十代前半だろうか、十代特有の肌の艶が消え失せている。


 今起きた現実に面食らうものが殆どの中、教室内が少しざわつき始めた。

 その前に怪しげなナイフを手に取らされていたせいもあり、一部の者はただのトリックだと思ったからだった。


「なんだ、手品教室でも始めるのか」

「タネを教えて」

「私もやりたい」


 そんな声を遮るかのように、女は教壇を平手で力いっぱい叩いた。

 再度、教室内は天使が通った後の様に静かになった。


「手品ではありません」

 女はそう言うと、今度は真崎の脇に立ち、そのスタンガンの様なものを押し当てた。


「これから彼を、元の年齢に戻します」

 二秒ほど押し付けられると、真崎もまた、先程の男と同じように体を震わせ、少し跳ねたかと思うと、その場に崩れ落ちた。


 少しの間が空き、真崎が立ち上がった。その顔は、正面玄関にいた時とは打って変わって、三十路にしては若々しい、いつもの先生のそれに戻っていた。

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