第15話・予想外の伏兵ー3

「どうやって来たの?」

 誰かが睦美に聞いた。


「実は昨日、見た事のない変な黒服のおっさんが家に来て、今日大綱高校の校舎に来いって。来ればこの後一年分の出席日数全部与えられるっていうから」

「それ、信じたの?」

「う、うん。鏑木かぶらぎも一緒だったし」

 鏑木は進路指導と生活指導の先生だったので、睦美もその言葉を信じた。


 そんな睦美達の会話は、入り口からの声に遮断された。

「皆さん、席に着いて下さい」


 睦美の周りにいた者達は、アリの子を散らすように散り散りになりながら、自分の席を探し、やがてそれぞれの席に落ち着いた。


 グレーのスーツを着た女が教壇に立ち、全員を一瞥してから口を開いた。

「まずは、誰一人欠けることなく出席してくれたことに感謝します」

 そして黒板の方に向き直り、白墨を手に取ると、黒板に大きくこう書いた。


『テロメアナイト・プロトタイプ2』


 女は再び黒板を背にすると、真正面を見据えた。

「えー、皆さんには、将来国営競技となる予定である、テロメアナイトに参加して頂きます」

 その時、壮太が手を挙げたが、女はそれを制した。

「質問は、説明が終わってからにして下さい」


 国営という言葉に、殆どの者は安堵した。

 国が行う競技ならば、身に危険が及ぶことはないだろうと。

 しかし、その認識はこの後、打ち砕かれることになる。


「まずは、それぞれの机の引き出しを開けて下さい」

 言われるままに引き出しを開けると、一瞬教室内の空気が凍り付いた。


 そこにはただ一つ、刃渡り十センチ程のナイフが入っていたからだ。

 冬人のそれには、刃の部分に「穂高冬人」と刻まれていた。

 冬人だけではない。それぞれのナイフには、各々の名前が刻印されていた。


 最初にそれを手に取ったのは修だった。そして刃の先端を指で触れると、その刃は少し動いた。

「なんだよこれ、おもちゃじゃねーか」

 その言葉に弾かれるように、全員がそのナイフを手に取った。

 よく見るとその刃先は丸く、光沢もなかった。まるでプラスチックで出来ているかのように。


「おもちゃの‥‥‥手品キットか」

 そう言って壮太も刃先を胸に当てて押し付けた。

 刃先はそのまま柄の中に納まり、外から見たら体に刺さったかのように見える。


「気を付けて下さい。十時になったら電源が入りますから」

 女が壮太の方を見ながら注意した。

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