第17話・予想外の伏兵ー5

 真崎は先程まで憔悴しょうすいしきっていたのが嘘かのように声を張り上げた。

「お前達、今すぐここから出ろ! こんな事許される訳が‥‥‥」


 そこまで言うと、黒服の男達に両脇を抑え込まれた。

「離せ! お前等なんの権限があってこんな事!!」


 教壇の女が顎をしゃくり上げると、黒服の男達は無言で頷き、真崎を廊下に引きずり出した。


「こんな事やらなくていい! 日本は法治国家だぞ! これ以上の暴挙は‥‥‥」

 真崎の声は段々と遠くなり、やがて聞こえなくなった。


「真崎先生にも困ったものですね。仕方ない」

 女は独り言のようにそう呟いた。

「では、代わりに私が転校生を紹介しましょう」


 そう言うと、女は入り口に向かい、その陰に隠れるように立っていた者を教室に招き入れた。


 その少年は、入り口から一歩だけ入ると、そこで立ち止まった。

 その瞬間、冬人と少年の目が合った。


 その目は、愛おしい者を見ているかのようにも、可哀そうな者を見ているかのようにも感じられた。


 だが、冬人はたまたま一番近くにいた自分と目が合っただけで、転校初日でこんな訳の分からない事に巻き込まれて、不安なんだろうと思っただけだった。


 女はその場で少年の方に手を向けると、皆に紹介した。


「転校生の福山赤司ふくやまあかし君です。こんな時、先生だったら、皆仲よくしてやって下さいね、とか言うのかな」

 そう言って鼻の頭を少し掻いた。


 明石はそのまま無言で皆に会釈すると、女に導かれるまま、空いている席、冬人の真後ろの席に着席した。


「時間が押してますので、本題に入ります」


 女の目つきがそれまでとは違って、鋭く光ったかのように見えた。

 狼に睨まれたウサギのように、その緊迫した空気に皆が飲まれていった。


「皆さんには、これから若さの奪い合いをして頂きます」

 女は身を乗り出し、両手を教壇に付けると、淡々と説明を始めた。


「皆さんが手にしているナイフ、これを刃の部分が見えなくなるまで人に押し当てると、先程のように相手の年齢を奪えます。一秒押し当てる毎に、約十年分」


 もはや横やりを入れるものもいない。皆、息を飲んで、言葉の一つ一つを聞き洩らさないようにと集中していた。

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