第13話・予想外の伏兵-1

 バスが動き出し、中の空気は少しづつ弛緩していった。

 殆どの者は遠足気分になっていったかのようだ。

 しかし、旧大綱高校の校門にバスが入ろうとすると、その空気は再び張り詰めたものになっていった。


 銀色の大きな壁で囲まれた敷地。ただの工事現場であれば、入り口はビニール製のカーテンで覆われているものだが、そこは鉄の門で、入り口には二人の黒服達が門番のように構えており、中は厳重に監視されている様に見えた。


 ゆっくりとバスが左に曲がり、乗っている者の体を大きく右に振っていく。

 そのまま大きく曲がりきると、中に入ったバスが、大きな風船の空気が抜けたような音を立てて停止した。


 カーテンでフロントしか見えない状態ではあったが、背後から聞こえる鉄が軋むような大きな音は、明らかに今入ってきた門が閉められる音だった。


 バスのドアが開き、ジンが先に降りた。勧められるでもなく、先頭の席に乗っている男子から順に、かつて学んだ学び舎の校庭に降り立っていく。


 冬人以外の者は肩透かしを食らっていたかのようだ。

 その物々しい外見とは裏腹に、中はかつて通った大綱高校そのままだったのだから。


 懐かしさからか、再度緊張の糸が次々に切れていくのが、その表情から分かる。


 ただ一人、冬人だけは、初めて見るその場所に不安を隠せなかった。


 周りを見渡すと、バスの後ろに黒塗りのクラウンが止まっていた。

 そこから降りてきたのは、先程修が食って掛かっていた黒服二人と、すっかりやつれている真崎だった。


「では、A校舎の二階、旧1-Aの教室に移動してもらいます」

 全員の降りたことを確認してから、ジンが大声で言い放った。


 大綱高校では、A、B、2クラスしかなく、出身者である皆は、その場所を把握していた。

 冬人は、真崎の事が気になりつつも、置いて行かれると迷う事になると思い、皆がそこに向かうのに付いて行くことにした。


 この学校の造りは、まずバスが停車した正面ロータリーから見えるのがA棟、並行するようにその背後にB棟がある。職員玄関はA棟の中央にあり、どちらも三階建てで、東西に長く伸びている。


 生徒の昇降口はA棟の左脇を抜けた先にあり、A棟とB棟を逆コの字の形に結んでいる。


 正面から見て左、つまり昇降口を背にすると正面にはグラウンドがあり、その北側には体育館、その更に北には屋根付きの弓道場がある。

 

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