第5話・始まりの朝ー4
「職員室に行ってみよう」
冬人は踵を返すと階段の方へ歩を進めようとした。が、すぐに足を止めた。
冬人の視界の先に
丁度階段を昇り切ったところらしく、鏑木も二人を目に留めて、表情を強張らせながら、一瞬後退りする様にして立ち止まった。
が、すぐにその表情を崩して歩み寄ってきた。
「君達、随分早いじゃないか」
「先生、それどころじゃないんです!」
美香は先生の言葉が最後まで言い切ると同時に大声で叫んだ。それでも先生はその微笑を湛えたまま近付いてくる。
「「先生!」」
冬人と美香の声がハモる。
それでも鏑木は我関せずとでも言うように、そのまま教室の入り口まで来ると、何事もないかの様に中に入っていった。
二人はあっけに取られて顔を見合わせた。
お互いの表情には混乱の色が伺えたが、こんな事態にあっても、美香と目が合ったことに冬人の心臓は高鳴ってしまう。
そのまま二人同時に鏑木の方に顔を向けると、鏑木は白いチョークを手に取り、なにやら黒板に書こうとした。
が、その手を止めると、体は黒板の方に向けたまま、顔だけ二人の方に向けて話しかけた。
「本当は登校時間までに書いておくつもりだったんだが、君達が早く来過ぎてしまったので間に合わなかったよ」
少しの間があった。鏑木は言葉を選んでいるようだった。
二人は黙って、鏑木の次の言葉を待った。
「君達三年E組は、なんて言うか、まあ、本日は
上手く説明できないのか、オブラートに包もうとしているのか、言わんとしている事がまるで解らなかった。そもそも、進級、新学期初日からどこに移動しろと言うのか。
「まあ、この二人に言っておけば、黒板に書く手間が省けていいか、うん」
鏑木はなにやら独り言ちたと思うと、いきなり無表情になり、次にはっきりと二人に向かってこう言った。
「君達三年E組は、本日、大綱高等学校の校舎跡地にて、課外授業を受ける事になった。校門前からバスが出るので、九時までに全員校門前に集合しなさい、と、この後来るE組のみんなに伝えておきなさい」
それは、なんとも事務的な物言いだった。
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