進展。物語が、進む。進めない彼女を基準に。
「……ッ、なんで、なんでいるんだよ」
「そうなるように仕組んだからさ。ああ、私じゃあ無くてお節介で悪戯好きな後輩達がね」
諦めて私こと
「……あははは、やっぱり見抜かれてましたか」
「当たり前だ。だから、本来とは違って、予定を変更して、私もまた余計なお節介を噛み合せた」
「利用した訳ですか、わざわざ気まずい空気にする為に」
誰も会話せず、私と『天才』のやり取り。静かで、だからなのだろうか、『天才』の怖さを一身に受け続ける。高い高い山にいるような酸欠気味の状態になる。
「気まずくはあろうとも、停まった時間を動かすには必要なことさ。否、歩みを止めた少女に、大きな一歩を歩ませる為にね」
『天才』がこの場の主導権を握っている。いつもいつまでも、何ならば永遠に。すっと視線が『不足』に移動する。
「…………」
「さて、欲張りな君は彼の告白をどう思った? 君の友達で、君だってそれなりに好意を抱いているだろう? そんな彼から告白を遠回しとは言え受けた訳だ。君は、果たして一体どんな返事をする?」
「……やめろ。やめろやめろ! こんなのは全部なしだ。聞き間違いだ」
「ほう、ここにいる全員が同じ聞き間違いをした訳か?」
「なら誘導だ。お前が誘導させただけだ。こんなもの、正しくはない」
「正しいさ。誘導させなければ言えないような弱虫の君の背中を押してあげたんだからね。悪意のない善意さ、その押した先が崖の先だとしてもね」
「ふざけるな、悪意がなければ罪じゃねぇって言うのかよ」
「言うさ。みんなそう言っているじゃあないか、イジメだって何だって、「そんなつもりはなかった」ってね。それで有耶無耶になるんだ、この世界は」
「詭弁だ、それを理解して、恣意的にその言葉を使うこと事態が悪だろ」
「おっと話がそれてしまったね。さぁ、君の答えは? 進」
「…………」
沈黙。気まずい沈黙。当たり前だろう告白を促され、その返事を待たれる。まるで遊園地でサプライズプロポーズをしているようなものだ、決まりきった答えを絞り出させられるそんな気まずさが、ここにはあった。
そして、それらは全て誰の期待通りにもいかない。そうなることを理解している『天才』の期待通り以外には。
「私は、私は件くんのこと、嫌いだよ。心の底から私は君のことが大嫌い」
「なっ」
その声、私だったっだろうか、先輩だっただろうか、それとも『不良』だっただろうか。『天才』じゃあないことは確かだが、きっと三人全員が同時に同じ言葉を発したのだろう。
無表情に『不足』は言う。
「当たり前でしょう? 私の前で、歩き回る人間なんて誰だって嫌いだよ。羨ましくて、恨めしくて、憎くて、うざったくて、死ねばよくて、邪魔で、消えてほしくて、話しかけてほしくて、黙ってほしくて、近寄らないでほしくて、笑いかけてほしくないよ。嫌いで、嫌いで、嫌いで、嫌いで、嫌いで、嫌いで、嫌いで、嫌いで、嫌いで、嫌いで、嫌いで、嫌い」
その無表情は、素なのだろう。あらゆるものが欠けた表情。誰にも隠していた表情を、彼女は現れにしている。
「っ……」
ぞっとした。怖かった。『天才』の怖さとも、『不良』との怖さとも違う。人間の奥底の部分、ドロドロとした妬みの部分に襲われているような、不気味さだった。
「…………じゃあ、私帰るから。……『天才』さん、これで満足?」
「ああ、満足だ」
本当に満足気に『天才』は笑っていた。全て計算通りという表情で。
一人で消えていく『不足』。完全にその存在感が消えたところで瞬間的に『不良』は、『天才』に殴りかかった。それを先輩が止めた。一体どうなって止めたのかは分からなかった。いつの間にか『天才』と『普通』の位置が入れ違い、拳を拳で止めていた。鈍い音が遅れて広がった。どちらかの骨が折れたのだろう。
「……どういうつもりだ、『天才』」
「どうもこうも、いずれこうなっていた展開だ。そしてこれがもしも彼女と一人だった時、君は彼女を襲っていた。車椅子を潰し、彼女を犯し、そうして殺していたかもしれない。君は、こうやって衝動を抑えることができない。抑えれない衝動を君は破壊することでしか解消できない」
「ッ。だから、その流れを自分に向けたって訳か。その上で、この異常者がお前を庇うと思って」
「いんや、後輩くんはついでさ。私は私でね、後輩くんを見測りかねているところがあってね。だから検証しているところなのさ。今日でかなりその推論を積めることができているけれどね」
「はははっ、なんか俺のことをお二人とも過大評価してますが、繰り返すように俺はただのしがない一般の高校生。『普通』なんですよ」
「ちょっと後輩は黙りたまえ」
「黙ってろ異常者が!」
「酷くねぇかな!?」
「……。『天才』……いえ、流先輩」
「なんだい? 後輩の後輩」
「貴方、何が目的ですか。貴方が暗躍することで、何が起こるんですか」
興味だった。純粋なる興味が湧いた。私の悪いクセ、抑えきれない衝動が、疼く。
「そうだね、世界で一番タチの悪い私が、世界で一番傍迷惑なお節介をしたいだけさ。これでも私はね、みんなが思っているよりも数千倍は君達のことが大好きなんだよ?」
「…………」
その言葉を噛みしめる。噛み締めて、咀嚼して、味がなくなるぐらいに反芻して。
「あははははっ!」
笑った。笑ってしまった。
「……萩原?」
「先輩。私、入りたい部活があるんですけど」
「だろうと思って、君の下駄箱の中に入れておいたよ」
「…………。そこまで、計算済みですか」
「『天才』だからね」
「…………。おいおい、俺を置いてけぼりにするなよ。何訳分かんねぇこと言ってんだ、よッ!!」
拳を引き、蹴りをかます。だがそれを真似たように先輩が同じよう足を出し、防ぐ。すっと先輩と『不良』が
「……先輩、そんなに戦いに心得ありましたっけ?」
「喧嘩独学って漫画読んだからかな」
「だいぶアウトな発言ですね!? あと通信教育で喧嘩ができるくらいになるなんてフィクションですけど!?」
「いんや、そんなこともないようだけ、どッ!!」
今度はこちらが、とでも言わんばかりに先輩が『不良』へ殴り掛かる。当然のように不良は躱し、反撃を取るがそれも受け止められる。
あきらかに喧嘩慣れしている。
違和感。何かぞっとしたものを先輩に感じた。『天才』とも『不良』とも『不足』とも違う恐怖。バケモノを見るような、そんな恐怖を私は感じてしまった。
「さて、全部まとまった訳だし、お開きにしようか」
「ふざけんな!! 何も終わってなんか――」
「せめて止めてからそんなことは言って――」
二人の同時の発言が言い切られるよりも前に『天才』が、いつの間にか二人を制圧していた。一瞬の動作、気が付いたら二人は地に伏し、捻じ伏せられていた。
「お開きにしようか?」
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