『不足』と『不良』について〈弐〉
「なんだよ、こんなところに呼び出して。もしかして愛の告白でもするのか?」
体育館裏にて、なんでもない一般人の俺こと
「まさか。私は誰も愛さないさ。愛されないし、愛さない」
「あれ? 今普通に振られた?」
「別にいいでしょ、『天才』に振られるなんて名誉なことだ」
「振られるまでもなく普通は無視されるからってか?」
「はい。少なくとも『不良』の貴方は『天才』の眼中にある。俺にとっちゃ、貴方は少しばかり羨ましい。腹立たしい程にね」
「……お前、そんなに『天才』の味方だったか?」
「少なくとも貴方の味方ではないですよ。『天才』の味方のつもりもないですけれど」
「おいおい、ここで裏切るのは無いだろう。同じ部活なんだから」
「はははは、悪い冗談を。僕は普通で、つまりは中立ですよ」
「なんだ? 何か目的があるのは分かってるが、、そちらの方が勝手に仲違いってのはやめてくれよ?」
「安心したまえ、別に私の後輩が敵でも問題はない。裏切ったからには死んだほうがマシなくらいに後悔をさせるだけだけど」
「一切の安心ができねぇな!? ……まぁ、でも確かに俺が誰の敵か味方なんざ、超絶に些事です」
「…………。ああ、くそっ、調子狂うなぁ。で、なんだ、実際の本題は?」
「いやはや、実は結構近いところを突いてはいるんだ。告白はしないが、告白をしてもらう」
「は? 俺が?」
「ああ、そうだ」
「ははっ、誰がお前なんかに告白などするか。くだらねぇ」
「私に告白などする必要はない。君が本当に好きな相手に告白をしてほしいんだよ」
「は? 俺には好きな相手なんざいないさ」
「いるだろう? 君の隣を共に歩む。歩めない彼女が」
「……ッ。ふざけるな。冗談で済ませねぇぞ、それ以上は」
弛緩していた空気が、急に締まる。殺意と害意が光から急激に放たれていた。だが、それを『天才』は歯牙にもかけない。
「くくっ、心当たりがある訳だ」
などと煽り、にやりと笑う。
「隣を共に、歩めない……ああ、
割と限定的な噂らしいが噂好きの友人から教えて貰った。流石に車椅子の存在は目立つ、誰だって進さんを見たことはある。見たことを、見なかったことにしたがる人もいれば、まじまじと見る人もいる。目立つが、噂にはしずらい。そんな腫れ物扱いを彼女は確かされている。
容姿は普通に綺麗で、きっと狙っている人も少なくはないだろう。その近くに暴力の化身こと『不良』がいなければ、の話だが。
「…………。あり得ないな。俺は奴のことを好きじゃあない。アイツも俺のことを好きじゃない。ありえない。絶対にあり得ない。あり得てはならない。俺達は普通の、ただの友人だ」
「本当に? 否、本当はそう思いたいだけじゃあないのかい?」
「え、何。もしかしてこれ、好きなことを認められないピュアな不良少年の話を聞かされてるのか、もしかして」
「君は身も蓋もないな。そうやって人は簡略化したがるが、それは思考の放棄だ。物事というのは結局は結果論で語られるが、だからと言ってその過程を無視していい訳がない。結果だけを見れば間違った行動をした者がいても、その過程における感情の機微を鑑みれば納得なんてシーンはいくらでもあるだろう。結果論というのは背景と前提と過程を全て共有し理解している者達の間でのみ行われるべき論争だ。それ以外の外野は沈黙を破ることを許されない。絶対にね」
「なんだ、何が言いたい。お前らは何が言いたいッ!!」
「急にキレるなよ、『不良』さん。『不良』なのは情緒ですか?」
「いい加減にッ!!」
ついと出てしまった煽りに対して光先輩が反射的な暴力を振るう。素早く、鋭く鈍いその殴打に『天才』は反応しなかった。できなかった訳ではない。反応する必要がなかった。
「……これ、止めるか、普通」
反射的とはいえ、殴り慣れている『不良』の攻撃は恐ろしい。急速な角度でこちらに刈り込むように入り込んでくる。警戒していなければ確実に急所に食らっていただろう。
「普通でしょ。『不良』相手に、まさか警戒をしてない訳がないじゃないですか」
「普通は『不良』に話しかけたりはしねぇだろ。距離を置くだろうがよ、異常者共が」
「心外な。こいつと一緒にしないでくれ」
「それは俺のセリフなんですけどねぇ!?」
「うるせぇ!! ああっ、クソッ、なんなんだよ。何がしたいんだよお前らはッ!!」
「言っているだろう? 私は告白してほしいんだ。君が、『不良』が、『不足』のことを好きだって、そう認めて欲しい。それだけさ」
「ッ、それを認めて、何になるんだよ。何が狙いだ、何を目的にしているんだよ……」
「私の為さ。ただのお遊びさ」
「お遊びで人の心をぐちゃぐちゃにするなんて、流石だな、貴様らは……」
はぁ、と盛大な溜息を光は吐き出す。
「ああ、ああ、そうだよ。クソ」
「おっと?」
「ああ、そうだよ! 俺は進のことが好きなんだよ。だけど、だから何なんだよ!」
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