『仕事』というのは楽しんでやるのが一番である。
「そういえば、久しぶりだね」
「そうだっけ? 昨日も会わなかったっけ?」
「自信持って。ちゃんと会ってるから」
もはや恒例になったような会話を、私、
気なだけで、気のせいかもしれないけれど。
「………。まぁ、細かいことはいいや」
「何が?」
「細かいことよ」
「じゃあいいか」
場所はあいも変わらずハンバーガーショップの二階だ。基本白で、少しだけポイントの付いた――校則や生徒指導の教師にギリ捕まらない程度の――マスクを傍らに、ダラダラと無意味な時間を過ごしていた。
無駄で無意味な時間だが、これがかけがえのない時間になるのだろうと自覚している。
「ねぇ、明後日の英語の課題、終わった?」
「終わったよ。見る?」
「マジ? 助かる」
「明日返してね」
「りょーかい」
そんな感じでまたまた数分の時間が経つ。
「――で、今日の本題は?」
ふいに切り替わって、千佳は至極真面目な口調になる。お互いに周囲の視線と声の大きさを読み取って、お仕事に切り替える。
「いやね、ちょっとだけ変な噂があるんだ」
「噂? 『天才』絡み?」
仕事というのは、千佳がやっている情報屋、そしてその工作実行犯としてのお仕事。と言っても別に私も千佳もお金を稼いでいる訳ではない。
学校内で、話を集めて広めて、あとちょっとだけ歪曲して、その程度の道楽だ。
「半分そうで、半分違う感じ。『不良』って知ってる?」
「不登校の?」
「うん。まぁ正確に言うと保健室登校で、しかもそれも体裁上のもので、いうなれば隔離なんだけど、それはともかく」
「確か、この前も血まみれの生徒が大通りを歩いていて補導されてたって噂があったよね。それ?」
「そーそ」
「へぇ、で?」
「どうにもね、その『不良』と、『天才』とあと『普通』くんがね、ちょっと邂逅しそうなのよね。しかも明日」
「へぇ。確か、一回『不良』は、二人と別個で喧嘩をしたことがあるんだよね?」
「うん。そして、二人に負けている」
「……『天才』はまぁ分かるとしても、『普通』負けるのかぁ」
「あれ? ああ、そうか。あの話は知らないんだっけ」
「へ?」
「まぁまぁ、気にしない気にしない。で、だからね、私はちょっとだけ面白いことを考えたの」
これが、本題の中の本題。千佳が私に頼む『依頼』だ。
「ほう?」
「シンプルに言えば、私はそこにもう一人をぶつけたい。で、メチャクチャにしてみたい」
「その心は?」
「『天才』が何かを企んでいる。だから、その企みをちょっとだけ崩してみたい。どう?」
「乗った」
私達にとって、やるやらない、乗る乗らないの基準は、面白いか面白くないか、だ。細かいことは気にしない、それだけだ。
「で、そのぶつけたい人ってのは?」
「えっとね、これはちょっと不確かなんだけど、『不足』って知ってる?」
「ごめん、知らないや」
「じゃ、概要、教えてあげる」
千佳が教えてくれた概要は、以下の通り。
『不足』こと
右足を交通事故にて失った。凄惨な事故だったらしく、要するには留年状態になっている。正確には二年になっているが、『不良』と同じように保健室登校となり、少しハイペースで授業を受け、授業のペースが追いつけばもとに戻るという形になっている。という体だが、その間にも人間関係は出来上がっている為、おそらくはそのまま卒業という形になる。
そして、この『不足』が何より有名なのは『不良』と親しい仲であるという点だ。
『不良』。完全な暴力マシーンといった印象を抱かせる人間で、天上天下唯我独尊だった。どうやら『天才』と『普通』に負け、その辺りから少し丸くなったらしい。
そして、その丸くなったギャップにやられたらしいのが『不足』だ。
今では学内でのサポートを任せられているらしい。
これはかなり限定的な噂話で、しかし知っている者達は二人のことを、『二歩』と呼ぶ。二人とも『不』がついていて二不、そして将棋のルール違反を繋げている。
ルール違反、道を外れた、アウトローという意味で『二歩』。
センスがあるようで、ちょっと回りくどいし『不足』に関していえばちょっと無理やりこじつけた感じがして少し違和感を覚えてしまう。
そんな彼女は、しかし『天才』と『普通』には関わりがない。初めて関わる人間を、因縁のある場所にぶつけることで、何かが起こるのではないか。
そして、その何かが起こった時、それは最高に面白いのではないか。それが千佳の面白いことだ。
「うん、なるほど、面白そう。でも、じゃあ、どうするの? 明日でしょ、どうやってアポ取るの?」
「アポは取ってる。とても単純にね、今回はシンプル雑用だよ。彼女を明日、三人のいる場所へ連れて行ってほしい」
「分かった。じゃあ、明日の昼休みに詳細はよろしく」
「はーい」
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