NEXTIME
さて、有名人というのは名の有る人と書く。だったら全員有名人じゃねぇか、と俺こと
まぁそんな話とは別に、この学校には有名人がいる。誰もがその名を記憶に残す人物、存在感の有る名の知れた人物。
まぁ言わずと知れた『天才』と『普通』だ。
とはいえ、それだけではない。彼らの存在感が有り得ない程に濃いせいでイマイチ目立ちはしないが、この学校には他に数人いる。
俺もまた残念ながらそんな存在感の薄い有名人の一人だ。
『天才』、『普通』に並んで、俺を表すなら、そうだな、『不良』なのだろう。
「オラァッ!!」
言葉と同時に鈍い音が聞こえる。肉を越えて骨と骨がぶつかる音。基本的には同じ成分構成の同物質がぶつかれば普通は両方が折れるはずだ。なのに一体どういう理屈なのかは知らないが折れたのは相手の方だけ。
勝利。完勝。ゲームで言うならSSS――最高評価だ。一撃も貰わず、一撃も躱されなかった。
満足してふぅと息を吐き、その場を去る。喧嘩の舞台だった街の大通りを少し超えた先、高速道路の下に在る小さなスペースを出た瞬間に何者かの野糞を踏んだ。人ではないことは確かだろうが、それはそれとしてツイてない日の代表例みたいな
「まぁ、いいか」
二度三度地面に擦り付けてから街を歩く。周囲の目は怯えている。そりゃそうだろう、服、拳、顔に返り血をべっとりと着けてまちなかを闊歩している人間を見れば当然の反応だ。
喧嘩や暴力は基本的には傷害罪だ。警察に捕まれば罪になるし訴えられたならば敗ける。
そんな当たり前のことをつらつらと述べて何が言いたいのかと言えば、俺は現在、「法律というルールを破った人間でござーり」と街中で宣伝をしている真っ最中である、ということだ。
ルールというのは守る為にある。それが常識で、当たり前で、普通だ。そしてそんな常識から現在進行系で外れている、そして過去完了形で人を殺したことのある俺を普通を自称する人間達はごく当たり前に恐れるのだ。
「……また君か」
けたたましい――とはいえ、最近はどうやら耳には届くが五月蝿くはないように周波数を調整しているらしい――サイレンと共に、俺の隣に寄り着けてパトカーから、そんな声が聞こえる。
当然降りてきたのは警察官だ。名前を
「そりゃまぁ、俺はいつでもどこでも俺ですから」
「あんまり余計なことを言うと捕まえるよ?」
と言いながら、ガチャンと手錠を掛ける。
「職権乱用祭りかよ。ふざけんなよ、仮にも公職だろうが!?」
「いやぁ、一日に一枚くらいしか使えないよ。そんなに食べられないし」
「食券じゃねぇ!」
そんなやりとりをわーぎゃーと繰り広げながらパトカーの中に連れ込まれる。否、そういう体で人の目から避けられる。
「……さて、それじゃあ家まで送ろうか」
「先輩、これはタクシーじゃないっすよ」
「だからお金は払わなくていいよ、だって」
「そういうことじゃないっすよ! こんなの本当に職権乱用っすよ」
「何言ってんの、事情聴取をした上で問題なしと判断、遅い時間だったので相手を家まで送り届けた。普通のことでしょう」
「問題大アリでしょうが! こんな血塗れの相手を見て何もない訳がっ!」
「……ったく、君はそういうところ融通が利かないねぇ。世の中の人間は適度に不正をしているもんだ。私達だって同じさ。それ以上言うなら、君の稼いでいるお小遣いのことチクるよ? 不正ってのは明るみになれば問題になるんだ」
「ッ……。分かりました」
何やら怪しい会話は聞かなかった振りをしつつ、黙った振りをする。
「本当にいいのかよ。こういうこと」
「別に構わないさ。君のことを見慣れない人を落ち着かせる為にパトカーに乗せてどうせパトカーが君の前まで行くんだ。それでいつものことかと思う。それでおしまい。またいつもの日常に逆戻りさ」
「所詮、誰も彼もが日常を脅かされることが嫌いなだけなんだ。だから脅威が視覚的に除外されてしまえばそれで問題なしだ。死刑囚のいる刑務所の近くにだって住宅はあるが、彼らは基本何も言わない。だがもしもそこから誰かが脱走したら文句を言うだろう。結局、目の前のことしか人間なんざ見ていないんだ」
「……だからその場凌ぎしかしない、と? 職務怠慢なんじゃあないですか」
「まさか。十分すぎる程の仕事量だ。社会という歯車は軋みを上げながらも、それでもかろうじて回ればそれでいいのさ」
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