二度目にして初めての邂逅

 コロナもすっかり終息ムードになった昨今。時間帯をズラしたりなどの対策は未だ続いているが、しかし外には既にマスクを外した人々が大勢いる。

 そんな日常を取り戻しつつある金曜日。

『ああ、すまないね。今日はOBが来るんだ。だから今日は部室には来ないでくれたまえ』

 などというラインが『天才』ことながれ星香せいかから送られてきた。極稀によくある通知だ。

 さて、今日は暇になったな、と思う。素直に家に帰ってもいいが、それではきっとあめだろう。

 雨は義妹だ。血は繋がっていないとはいえ、それでも雨は妹だ。だから死ぬほど甘やかすのも兄としての役目だが、しかしある程度は突き放すのも兄としての役目だろう。

 反抗期を一向に迎えない雨には、ぜひとも反抗期を迎えてもらいたい。嫌いだとか死ねだとか言う雨の姿は正直想像できないが、しかし、それを俺、あがた裕二ゆうじはきっと喜ぶだろう。変態とかそういう意味ではなく、雨が成長できていることに感動して、だ。

 いやさ、それはそれで変態っぽいか。

 などと思いながら帰路に就く。コンビニに寄り、その後ゲーセンに寄って、あとはパソコンショップへ寄ってPCパーツを見繕ってみたり、或いはアニメグッズショップに行って好きなキャラクターのグッズを買ったり。そんな風にして俺は時間を潰していく。


「……げっ、なんで」

 いつものように私、萩原はぎわらあいが空き教室を覗いてみると、そこに先輩はいなかった。何やら用事でもあったのだろうか。

 そしてその代わりに、とでも言いたげに『天才』がそこにいた。

 さて、どうしようか、と改めて教室の中を覗くと、しかしそこに『天才』はいなかった。

「っ?」

 違和感を覚える。そして同時に――ぽん、と背後から肩を叩かれた。

「やあ、後輩の後輩くん。こうして実際に面と向かって話すのは初めてだね」

「ッ!?」

 いつの間に、と思う。いや、それ以前にどうやって、と。理屈としてあり得ない。――だが、それを可能にするから『天才』であるのだろう。

 彼女はそういう存在なのだから。

「……何の用ですか」

「別に君に用はないさ。だけれど、どうもね私の後輩に変な虫がついたようなんだよ。ちょうど、君たちの学年が入学したころからね」

「……へぇ」

「それで、まぁ一番彼と親しい君に少し相談というか、忠告というか、まぁそんな類のことをしようと思ってね」

「…………」

 ああ、それはきっと私のことだろう。そして暗にこう言っているのだ。今は知らない振りをしておいてやる、と。

「まぁ別にそいつがどんなことをしていようとも関係はないんだ。今はどうやら観察の段階であるらしいしね。そして観察において言えば、それは私だって同じだ。後輩の言動は実に興味深い。それを見てしまう。見入ってしまう。魅入られてしまうことを悪く言うつもりはない」

 だけれどね、と『天才』はあえて言葉を区切って告げる。

「もしも彼を変えようなんて愚かなことをしようと思っているのなら、変える、染める、或いは壊そうなんていう愚かなことをしようとしているのなら、それは止めておいた方がいいと、私は思うんだよ」

「へぇ。それはどうしてですか?」

「彼は普通であって、普遍であって、だからだよ。彼は変わらない。だから彼を壊そうとするには、まずは己から壊さなければならない。そういうタイプだ。だからこれは忠告だ。もしもそんなことを企む人がいたならば是非とも止めてやるといい」

「…………」

 さて、と思う。この現状はどうすればいい。人生一番のポーカーフェイスをかましながら私はそれの答えを探す。

「……………………」

「? どうしたんだい、後輩の後輩」

「…………。いえ、なんでもないです。そうですね、きっとその悪い虫とやらもそんな気はないでしょうから」

「そうかい? しかし、愛というのは盲目なものだ。ついうっかり、染め上げようなんて気概が湧いてしまうかもしれないからねぇ。それが己への危害になる可能性をゆめゆめ忘れないように、よろしく頼むよ」

「ええ、そうですね。しかし、その悪い虫とやらは果たして、愛など持っているのでしょうかね」

「さぁねぇ。それは人の主観さ」

「そうですか」

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