第十一回

 日を改めて青木さんと会い、百瀬さんの実家である定食屋を訪れた。他に客がいると話しづらい為、閉店後の時間に。

 サプライズに気づいた百瀬さんは驚喜して迎え入れてくれる。


「いらっしゃい。赤城さん、青木さん。まさか来てくれるなんて思ってなかったよ」

「ああ」

「…………」

「赤城さん?」


 あたしは緊張して何も言葉が出てこなかった。対面して直接会うのは二度目でも、一番の憧れの人が悩んでいると聞いてなんと声を掛ければいいのかわからなかった。


「ああ、あっあの! こんばんは!」

「こんばんは」


 はうああ〜〜っ!! 百瀬さんが! あの百瀬さんがあたしに向かって挨拶してくれた!! ヤバイよ嬉し過ぎて心臓ドキドキして破裂しそう!!


「とりあえず好きな席にどうぞ」


 店内はこじんまりとしているが、昔ながらの雰囲気が漂っていて懐かしさを感じる。どこかのんびりとしていて、きっと昼間は客で賑わっていて、夜はとても静かでほんのちょっとの寂しさもある。


「桃矢。コレ運んで。私たちから」


 奥の作業場からこっそり顔を出しているのは百瀬さんの母親だろう。

 百瀬 白椏は芸名で、本名は白戸 桃矢さんという。

 定食を三つ運んできてくれてご厚意に甘えることとする。


 なにこの素敵なシチュエーション……ご実家で一緒にご飯を食べられるってヤバくない? なんのイベント? 私にとってはただのご褒美だよ……嬉死んじゃうよ……


 百瀬さんが前の席に着くと、どっと緊張が押し寄せてきてまともに顔を見られない。


 喫茶店の時はカウンター席で隣だったけど顔はチラ見だったし、今は全体のお顔見れちゃうしゆっくり話せちゃうしもうなにこれ尊いしか言葉が出てこない!!


「じゃあいただきます」

「はっ! あ、いただきます!」

「どうぞ」


 定食は彩り良く、量もあり、これは絶対美味しいと目に訴えかけてくる。一口二口と食べてみて、ただ美味しいというだけではなく、優しくて懐かしさのある味だ。


 はあ〜〜お味噌汁が体に染みる〜〜!


「ふふっ。美味しそうに食べてくれるね」

「はい! すんごく美味しいです!」

「おふくろたちも喜ぶよ」


 そう言う百瀬さんも嬉しそうに笑い皺を刻み、その笑顔が眩しくてつい視線を店内へと移してしまう。


「あっあのっ、シュゴライオンがいますね! 他の守護獣たちも」


 店内のショーケースにシュゴレンジャー関連のフィギュアやグッズが整然と並んでいる。シュゴライオンとはシュゴレッドの守護獣で、スーパー戦隊シリーズでおなじみの変形巨大ロボットである。


「シュゴレンジャーの制作スタッフが、僕の代表作だからって活動休止の時に贈ってくれたんだよ」

「最初は飾るつもりなかったんだろう?」

「我が物顔をしているようで恥ずかしかったんだよ。代表作とはいえ随分前の作品だし。でも飾ってほしいって言われたらなんだか断りづらくてね」


 照れて困ったように話す百瀬さんは、時々苦しくて悔しいって顔をしている。

 表現力や演技力を身につけてきたからか、そんなわずかな表情の変化に気付けるようになったのは成長しているということだろう。


「嫌だったんですか……?」

「嫌ではなかったよ。ただ本当に恥ずかしいって思っただけなんだ。……過去の栄光に縋るみたいで」

「そんな……! 過去の栄光だなんて誰も……」


 言葉にしてみてはっとする。世間でのイメージはシュゴレッドだった人。他に目立った代表作は無く、脇役ばかりだった。世間では目立つ人ではないと言われていて、それが芸能界ではどう言われているのかなんて想像がつかなかった。もしかしらもっと厳しい世界なのかもしれない。


 あたしはここに、何をしに来たんだろう……青木さんはあたしに何を期待してるんだろう? 百瀬さんも私みたいに悩んでるって……それって自信が無くなってるってこと?

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