第十回

 女優のオーディションは受からないから無意識の内に自棄になっていた。というより、焦っていたんだ。このままじゃ夢が終わってしまうんじゃないかって。誰でもいいからあたしを見つけてほしいって、そう思ってた。誰でもいいわけじゃない。ちゃんとあたしのことを……スーパー戦隊を好きだって人に認めてもらいたい。


「もっと他にアプローチ方法を考えないとかなあ……」


 高校生の自分に出来ることには限界がある。努力をたくさんしても発掘してもらえないと意味がない。見つけてもらえる運も必要で、その為には色んな可能性の糸口を繋げないといけないと気付く。


 とにかく自分を売り込むんだ。熱意を伝えないと!


 スカウトの一件からモデルになりたいわけじゃないと再認識して、明らかにおかしいきらびやかな名刺を破り捨てて、それからはまたオーディションを受けたり、劇団を訪ねてみたり、エキストラに参加したり、女優に繋がりそうなことにチャレンジした。その度にあたしのスーパー戦隊への想いをぶつけてきた。

 高三になってから進路の話になり、何十回とオーディションには落ちたけど女優への道は諦めないと先生にも両親にも伝えた。そうしたら先生も両親も、あたしのことをちゃんと本気だってわかってくれて応援してくれるようになった。


「でもやっぱり中々上手くいかないよねえ〜」


 芸能事務所のオーディションに応募して、また不合格だった。


「はああ……今回は結構いいツカミだったと思うんだけどなあ」

「キミは……赤城さんだったか?」

「……はい?」


 オーディションの帰り道、ばったりと出会ったのは百瀬さんのトークショーでぶつかった男性だった。


「えっと……百瀬さんのマネージャーさん、でしたよね? 確か……青木さん」

「そうだ。ここにいるってことはオーディションを受けてたのか」

「はい……何回も応募してるんですけど、やっぱり駄目で。何かが足りないのかも」

「……自信、じゃないか?」

「自信……ですか?」

「何度も落ちていることで、始めの頃の初々しさや元気が無くなり、ある程度の慣れもあって緊張感も薄れる。そして受からない虚無感と諦めてしまおうかという葛藤、そして自信喪失」

「すごい! まさにそんな感じです……!」

「芸能人は皆通る。百瀬も例外じゃない」

「百瀬さんも……」

「そうだ。少し待ってくれ」


 そう言ってメモ帳を取り出し一枚切り取ると、前に届けたペンで書きだしていく。そして書いたメモ用紙を渡してきた。


「百瀬は今、実家の定食屋で働いている。それはその定食屋の住所だ。ペンを届けてくれた礼として教えておく」


 これは悪魔の囁きに聞こえた。こんなこと、知ってはいけない。


「あれはあたしが悪かったんです! あたしがぶつかったからペンが落ちちゃっただけですよ。それにプライベートのことだし……他のファンの人が知らないことを教えてもらったらフェアじゃないです」

「まるで盾付 護みたいな台詞だな」

「それって、三十ニ話の護さんの台詞ですか? 『アレは自分のせいだ。キミが気負うことはない。あのことを理由にキミがオレを助けると言うのなら、それはフェアじゃない』っていう」

「よく覚えているな」

「一話で助けた子供が再登場して、実はスゴイ能力を持ってて話のラストには仲間になるっていう胸熱回だったので!」

 

 盾付 護というキャラクターは冷静な判断が出来て、尚且つ説得力のある励ましの言葉を掛けてくれる。いざという時の情熱溢れる男らしさが本当に好きだ。


「やはりキミには百瀬に会ってもらいたい」

「どうしてですか!?」

「いつだったか百瀬がキミのことを話してくれたんだ。喫茶店で少しだけ話して、真っ直ぐにシュゴレンジャーを好きだと言ってくれたと喜んでいた。その時の百瀬も純粋に嬉しそうだった。俺は、人を救えるのは純粋さだと思っている。今あいつもキミのように悩み迷っている。だからこれは俺からの頼みなんだ」


 百瀬さんが自分のことを覚えていてくれて、それをマネージャーとの話題にしてくれた。こんなに嬉しいことはない。


「定食屋で働いていることや場所はブログにも記載されているから、他のファンが知らないことではない。つまりフェアってことだ」


 青木さんの熱意が伝わってくる。これが青木さんの純粋さだと思ったら、それに応えないわけにはいかない。

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