第三回
トークショー当日。場所は都内の公民館。トーク内容は地域の安全や犯罪対策。
あたしは電車を乗り継いでやってきた地方の田舎娘ですけどね! この辺の地域の人じゃないですけど! 百瀬さんに会うためにやってきましたよ! 遠くたっていい。好きな人に会うのに遠さや時間なんて焦れったいだけで、それさえも楽しみに変えちゃうんだから。
公民館の入口には本日のイベント予定表が貼られていた。
「場所は講堂……と。どこだろ」
キョロキョロと辺りを見渡して、案内板を発見する。場所を確認しながら指で辿る。
「えっと、ここが入口だから講堂は……あった。ここだから……奥の方ね」
場所を暗記する。後は行って待つだけだ。
「はあー楽しみ!早く会いたい!」
百瀬さんのトークショーは初めてじゃなくて何回も来てる。だけど何回会っても、むくむくと沸き上がる嬉しさや楽しみは止められない。会うというより、見に来てるって言う方が正しいか。言葉を交わすなんて夢でしかないから。
「生で見るだけで幸せだから! 待ってて百瀬さーん!」
思わず通路を駆け出してしまう。
ドンッ
「ギャッ!」
「わっ!」
ベタに角を曲がった先で人にぶつかった。ぶつかって大きな音を立てて二人とも尻もちを着いた。
「ったた……、ああのっ、ごめんなさい!」
「いったたた……こんな狭い通路を走るなよ……」
「すみません……」
「ったく……あれ? キミ……」
「はい?」
ぶつかった男性は怒っている様子だったけど、あたしの顔を見ると何故か驚いた様子だった。
「青木さーん」
「はい、行きます!」
青木と呼ばれた男性は先に立ち上がる。
「気をつけてくれよ」
「あ、はい……」
ぶつかった拍子に落とした荷物を拾い上げて呼ばれた方へ歩いていく。ぶつかった衝撃なのか呆然と床に座ったまま、どこかの部屋に入る男性を見送った。
「あーもー最悪……浮かれすぎた」
立ち上がりがくりと肩を落とした。俯いた先にはペンが落ちている。見かけないデザインの高そうなペンだ。
「えっ、これもしかしてさっきの人の? どうしよう、部屋入って行っちゃったし……ってうわああ! もう始まっちゃう!」
何気無く時計を見たら針は始まりの時間三分前を差していた。今度は小走りに講堂へ向かった。
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