第四回

 何とか時間には間に合った。指定席に座って深呼吸をし呼吸を整える。


 前の良い席取れたしラッキー。生百瀬さんをたくさん目に焼き付けないと。


 始めは司会が注意事項の説明をする。それからが本日のメイン紹介。


「ではよろしくお願いします。本日の語り部は百瀬 白椏さんです」


 司会が袖にお辞儀をして去っていくと同時に現れたのは、紛れもなく百瀬 白椏本人。あたしは講堂に集まった誰よりも素早く大きな拍手をして迎えた。


「はあ~っ百瀬さん百瀬さん百瀬さん」


 小声で名前を連呼して興奮を抑えようと必死になる。

 中央の壇上に立ち咳払いをして少し掠れた低い声をマイクが拾う。姿勢を正して凜とした佇まい、遠くを見るような真っ直ぐな視線に釘付けになる。


「皆さん、こんにちは」


 挨拶をされたら講堂内の客も挨拶を返す。柔らかく微笑む顔もあたしは見逃さない。


「ご紹介にあずかりました、百瀬 白椏です」


 聞き心地の良い低音声にただ耳が癒されていく。トーク内容の前に自己紹介から始まる。


「まずは自己紹介をしたいと思います。知らない人の話を聞いても面白くないと思うので。先に聞いてみたいんですが、私の職業をご存知という方はどれくらいいますか? ちょっと手を挙げてみてもらってもいいですか?」


 客は幅広い年齢層がいる。高齢者から子供まで。恥ずかしいからか本当に知らないのか、手を挙げる人は多くない。


 あたしは知ってます。ファンですから。


 あたしは真っ直ぐ手を挙げた。真っ直ぐ百瀬を見つめながら。その時、百瀬と視線が合った。それだけで胸が締め付けられるような、撃ち抜かれたような思いをする。


「はい、ありがとうございます。皆さん恥ずかしがりやですね~。私もまだまだですね、もっと頑張らないとなあ」


 なんて謙虚なジョークを交えていた。それからというもの、簡単な自己紹介をしてから本題の地域の安全と犯罪対策についての話が始まった。百瀬単体のトークショー自体は約三十分で終わり、休憩を挟んで後半は映像、司会と百瀬のトーク形式でクイズを挟むなどバラエティーに富んでいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る