第62話-「絶対、帰って来いよ」②

 ゲートの向こうの優月が見えなくなった時、はじめて涙が頬を滑り落ちた。

 力が抜けて膝から崩れ落ちる。


 こんな想いをするのはいつぶりだろう。篤は人目も気にせずその場で泣き叫ぶ。

 溢れる涙も、震える拳も、すべて自分の正直な心だった。


 この拳でも救えないものがある。手に入れられないものがある。本当はわかっていた。しかし、それ以外の方法を諦めていた。自分にはそれしかできないと決めつけていた。


 そんな自分が悔しくて、たった一人の女の、優月の涙を、悩みを、消し去ることもできない己の無力さに腹が立って叫ぶ。しかし、それ自体がまぎれもない泣き言だった。


「早乙女さま……」


 後ろから中野の優しい声が聞こえる。


「優月さまはいつも言っていました。早乙女さまは本当にお強い方だと。一人でも、どんなに苦しく辛い相手にでも、闘って勝ってみせる本当に芯の強い方だと」

「違うんだ、優月。俺はそんな――」

「そんな早乙女さまと一緒にいられて幸せだったと。自分も勇気をもらったのだと。そしてまたこの場所に戻って来ようと、心から願っていました」


 ただ嗚咽が零れて止まらない。

 そんな篤に目線を合わせ、中野は篤の顎をぐいっと持ち上げる。


「情けない顔をしないでください! 早乙女さまは優月さまをちゃんと救ってくださったのです。あれは間違いなく優月さまの本心からの笑顔でした。優月さまが好きなのは、いつも不敵に無愛想な早乙女さまなのです」


 中野の力強い眼差しに篤は言葉を飲んだ。そして大きく息を整えて無理に頷く。

 どれだけ泣き喚こうが優月はもう行ってしまったのだ。涙ながらも笑顔で旅立った。なのに俺がこんなんじゃ示しがつかないじゃないか、と篤は思いきり自らの頬を弾いた。


 中野に支えられて立ち上がり、優月が乗ったジャンボジェット機に拳を突き付けて笑いかける。


「頑張れ。俺も頑張るから」


 という言葉は霞む声と喧噪な空間の中に消えていった。

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