第46話-「優月から手を引いてくれ」①
篤が目覚めたのは、すでに日が沈んだ後だった。
全身痛むが、幸い骨折などはなく、手当てが施されている。見上げた天井は真っ白で、顔を横に向けるとベッドに格子がついている。
ここは病室のベッドの上。すぐに相原病院だとわかった。
決まっていつも嫌なことの後は、この病院にいる気がする。篤はそう思った。
起き上がろうとするが一升瓶で殴られたところに衝撃が走る。痛みに顔をしかめながら上半身を起こすと、入口近くの椅子に腰かけていた中野がすぐに駆け寄ってくる。
大丈夫だと虚勢を張って、自分で身体を起こした。
落ち着いて周りを見ると病室には中野が一人。横の机には篤の荷物が置かれている。
篤は現状を把握しながら、ゆっくりと記憶を辿った。
「そうか……。そうだった。俺負けたんだな。情けねえ」
呟くと中野が首を強く横に振る。
「そんなことありませんっ! 早乙女さまはしっかりと優月お嬢様を守ってくださいました。本当に感謝しきれないくらいです」
「でも、あんたと竜也が来てくれなかったら、とりかえしのつかないことになってた」
「しかし……」
「いいんだ。もうそれ以上は言うな。それより優月と竜也は……」
「妹尾さまはお帰りになられました。これくらいでめげるんじゃねえぞ、と伝言を……」
「あいつらしいな。後で礼の連絡でも入れとく。そんで……優月は?」
「お嬢様は……」
言いかけて中野はわずかに顔を伏せる。
まあ、なんとなく篤は想像できた。
「あんな姿見たら幻滅するだろうな。それに恐い思いもさせた。悪かったな、俺がこんなんでよ」
「いえ、そうではなくて……本当にごめんなさい……と。早乙女さまに合わせる顔がないとおっしゃっていて……しかし、お嬢様も本当に感謝しています」
「そう……なのか?」
肯く中野に篤は複雑な心境だが、どこか胸の暗雲がわずかに引いたような気がした。
「ただ自身のことを強く責めていて……。今日はもう休ませてあげてもよろしいでしょうか?」
「もちろんだ。だから中野も早く優月に付き添ってやってくれ。俺はもう帰るか……ッ!」
「だめです、早乙女さま! まだ傷がしっかり癒えてな――」
「大丈夫だ。これくらいなんでもねえ。それにこんなとこにいたら治るもんも治らねえよ」
篤は立ち上がろうとして、痛みに顔を歪める。抑える中野の手を弾いてベッドから起き上がると、血の付いたYシャツを引っ提げて病室から出た。
薄暗い廊下の窓に自分の顔が映る。思ったより酷くはなかった。
そうとは言っても、右目の上にはくっきりと青あざができていて、半分しか瞼が開かない。唇は切れて赤く染まり、顎にも大きなあざがある。それでも昔に比べれば全然ましだ、と篤は気にせず歩いた。
そしてエレベーターに乗り、ふと思う。
篤は時間を確認してからエントランスのある一階ではなく、七階を押した。
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