第27話-「嫌だ……負けないで……」②
試合は大学の体育館を貸し切って行われていた。
両サイドには観客が上から観戦できる二階席が用意されていて、その中のなるべくリングがよく見える手前の席に優月は腰を下ろす。すでにリングの脇にはステップを踏んで身体を慣らす篤とトレーナー兼叔父の立浪誠也が待っているのが見えた。
そしてビデオカメラを構えてファインダーを覗きこんだ時、
「優月ちゃん、オレが撮っといてあげるから篤の試合をしっかり見てやれよ」
すぐ後ろに竜也がいることに気付き、御好意に甘えてカメラを預けた。
「おお、相変わらずおっかねえ顔してんな」
なんてズームで篤を確認する竜也の前で優月は祈るように手を組み合わせ呟く。
優月はたったこの一試合の、わずか六分間で決まる五分五分の勝率に願っているのだ。誰も気付いてはいないが、優月にとってその五十パーセントという数字は大きな意味を持つ。そしてそれが功を成すかどうかに全てがかかっている。
「お願い、証明して。五割でも勝てるということを……」
優月は目を瞑り、リングに向かう篤の姿に自分を重ねた。胸の前で手を組むと否応なしに鼓動が聞こえて、その小さな悲鳴の行先を篤の六分後の未来に託す。
そんな期待を知る由もなく篤はリングに上がり、ゆっくりと時間が動き出した。
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