第20話-「やよいはね、おほしさまになるの」④

「――みかもとやよい。ろくさい!」


 御神本みかもと弥生やよいはそう言った。ベット横に記されている名札を見て、どこか神秘的な名前だなと思う篤を横目に優月は弥生に語りかける。


「弥生ママは?」

「きょうはママおしごとなんだってー。だからゆづちゃんきてくれて、やよいすっごくうれしいの!」


 弥生は優月の手をとって嬉しそうに笑う。ちょうど抜け落ちて、生えきってない前歯が愛くるしい。さすがに篤と言えども、これくらいの子どもに女どうこうは関係なかった。


「それで……このおにいちゃんはだぁれ?」


 弥生のくりくりとした瞳が篤の鋭い眼とぶつかる。また恐がられても面倒なので今度は篤が目線を外した。


「この人はね、一昨日話した篤くんだよ! ほら、あたしの彼氏くん!」


 優月が胸を張ると弥生はベットからのり出して、目を爛々と輝かせながら篤を覗きこむ。


「うわぁー! ゆづちゃんのかれし!? すごいすごーい! つよくてかっこいいんだよね? あっくん、よろしくねっ!」


 いきなり突き出された弥生の右手を篤は不思議そうに見ていたが、「握手よ、握手」と優月に促されて、同じように右手で返す。点滴の繋がった弥生の小さな手は柔らかくも、どこか弱々しいかんじがした。


「あっくんのおてておっきいね。ゆづちゃんのよりも、すっごくおおきい」

「そうよ! それに篤は力持ちなのよ! だから今日は篤にいっぱい遊んでもらおうね!」

「おい、優月。それどういうことだ?」

「まあまあ、細かいことは気にせずに。とりあえず弥生ちゃん、高い高いしてもらおうか?」

「え、いいの!? やよい、うれしい!!」


 なんて、きらきらした目で見つめてくるもんだから、篤は断れずにしばらく弥生を持ち上げては遊び相手になっていた。

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