第12話
今日は走ってばかりの一日だったな。
村に近づくとしめ
デュマは鳥居の前に立ち、一礼し左足を踏み出す。参道を行き、村の入り口脇に置いてある
村に入った頃には日は完全に落ち、家には明かりが
「デュマッ!」
村中に
「父さん」
「ごめんなさい、勝手に村の外に出て…でも!」
「そちらの女性は誰だ?」父の視線はデュマの遥か背後を
まさか!デュマは恐る恐る振り返る。
「どうも初めまして。ご子息の命の恩人でシキ=ミレイと申します。私はお断りしたんですが、どうしてもお礼がしたいというご子息の熱意に負けて、
「うがあああああああああああー!!そんなこと一言も言ってないぃぃぃぃぃ!!!」
なんて
小さい時に隣の家のギラン
「そうでしたか。これも賢者ヴィトのお導きでしょう。何もない村ですが
「父さん?」父の言葉にデュマは本当に驚いてしまった。
外部の人間を父の一存で招き入れるなど村の
「まずは長老のもとに案内いたします」
長老の家は村の中心に位置する。行事の打ち合わせや村会議などを行うときにも利用するので、自然と村で一番大きい建造物であった。
道中、周りから好奇の視線を浴びせられ、なんとなくデュマは得意な気持ちになった。普段村で生活して自分が注目されることなどほとんどないからだ。
家の扉を
ミロおばさんが三人を居間に通し、ここで待つように言うと扉を閉め出て行った。
それを
「申し訳ない。珍しいことなので、みんなピリついているようです。普段は気の良い人たちばかりなのです」
「王都近郊にこんな村があるなんて初めて知ったわ…しかも樹海の
「それは私の口からは申し上げることができません。長老から説明があるはずです」
入り口の脇に立ったまま父が答える。デュマも父に
それからは誰も一言も
「あーお腹すいたなぁ」ミレイがあからさまに食事を
「お待たせして申し訳ない」長老が杖に体重をあずけ扉を押しあける。
長老が杖をついているのは、歳で足腰が弱っているからではない。今年で五十六歳になり初老にさしかかってはいるが、むしろ肉体は
父が長老に手を貸すよりも早く、ミレイがすでに横に控えていた。父もデュマも目を見開いた。そんな隙はなかったはずなのに…音すらも立てずにソファを挟んだ三メートルほどの距離を一瞬で移動したのだ。
出会った時から人間離れした芸当を見せつけられてはいたが、もしかしたらとんでもないものを村に招いてしまったのかもしれない。
「大丈夫です、シキ家のご令嬢。お気遣い感謝しますよ」
長老の対応にデュマは違和感を持った。素性のよくわからない女とはいえ確かに客人には違いないので、丁寧に応じるのはわからないでもない。
それにしても長老の接する
それに、シキ家とはなんだろうか?
ミレイを盗み見ると、彼女は右眉を持ち上げて顔を
それから、父とデュマも座ることを許され、四人は
「森でデュマを助けていただいたそうですね。私からもお礼申し上げます」そう言うと長老は深々と頭を下げる。それを見てデュマは、申し訳ないと言う気持ちが湧き上がってきた。
ミレイはどうでもよさそうに顔の横で手をヒラヒラさせる。それから、さきほど父にしたのと同じ質問を繰り返した。
「そう、ここは先史時代から
「私が入ってこれたのは、彼について行ったから?」
「そうではありません。村の者を追跡しても、いくつかの手順をこなさなければ侵入は不可能です」
長老の言う通りだ。デュマは逃げながらも正規の手順を踏んだからこそ村に辿り着くことができたのだ。それを知らない者には絶対にわからないはずだ。
「じゃあなんで?」ミレイの疑問はそのままデュマの疑問でもある。
「
「結界を
「結界は破られてはいません。この結界は禊術で破壊しないように禊術使い−つまりシキ家の血筋の者を感知した時、一時的に機能を停止するように設定されているのです…もちろん今はもう正常に機能しておりますのでご安心ください」長老は用意していたように淀みなく説明する。
最後の一言は、デュマに向けた説明だろう。
父の表情を窺うに、どうやらこの場で話についていけてないのはデュマ一人だけのようだ。
「あの…僕には何がなんだか…」思い切って話に割り込む。
父が後にしろと言うように
この世界には
ナイカ村に張り
一般的に虚影律に
しかし、あまり広くは知られていないが虚影律に対抗できる術がもう一つある。それが大陸最古の一族の一つであるシキ家の禊術である。
禊術は
「正確には禊術の
「シキ家は賢者ヴィト様とともに、
デュマは
「ねえ、どうでもいいけど何か食べる物ない?お腹減っちゃって」
「ああ、申し訳ございません。大したものはお出しできませんが…」
「肉を
「かしこまりました。用意させましょう」
「あ」急にミレイが顔を曇らせる。「この村、食人文化が残ってたりしない?」
これには長老や父も顔を引きつらせた。「いえ、大丈夫です。新鮮な鹿肉があります」
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