第11話
デュマはあらん限りの力を持って走り続けた。
迫り来る
向かい風が目に
そんなことに構わず走り続けていると突然、
(えっ?)
混乱する頭に追い打ちをかけるように重力が反転する。頭から
立ち上がろうと地面に腕を突き立てた瞬間に気持ちが悪くなり
このまま地に
一応剣の
しかし、今日出くわした妖は、見たこともないほど巨大化した――猫ぐらいの大きさもある
あれほど肥大化した奇形の妖は初めてみる。
だが覚悟を決めなくてはならない。
(大丈夫、僕ならできる)そう自分に言い聞かせ意識を集中させる。
ぱきっと枝を踏み抜いたような乾いた音が響く。
デュマはびくりと身を震わせ、音のした方へ重心を
(妖は飛んでたのに、なんで枝の折れる音がするんだ!?)
薄暗い森の奥に、
「剣を納めなさい」
女性の声だ。予想外のことにデュマは一瞬気を緩める。
(いや、おかしいじゃないか。なんでこんなところに女がいるんだ?)
その疑問に至り、すぐさま気を引き締め直す。
「まあ、そうよね」女は少し満足そうな笑みを口元に浮かべる。
年は二十代半ばといったところか。身長はデュマよりも高そうで百六十センチメートル台後半くらい。短く切った黒髪に黒革のダブルライダースジャケット。猫科の動物を思わせる、つり上がった大きな眼と薄い唇。なかなかに可愛らしい
「人間…ですか?」恐る恐る
「失敬な。それ以外のなんに見えるってのよ」ムッとした様子で女は答える。「そんなことより剣を仕舞いな。でないと痛い目を見ることになるわよ」
「あなたが敵でないという保証がありません」
「何その言い草。人がせっかく助けたってのに、失敬で失礼で無礼よ。まるでうちの弟みたい!」
「全部同じ意味です…いや弟さんのことは知りませんけど…」デュマは
――と、女は五メートル近い距離を一跳びで
「〜っ!!」予想しなかった痛みに声すら出ない。
女はさらに左手でデュマの
流れるような動きに
「
女は無邪気な声でそう問いかけてくると、デュマの体を引き寄せそのまま剣を鞘に納めた。
吃驚したどころの話ではない。身体中のあらゆる器官が収縮している。
「迷子?家族とはぐれたの?」
「違います。村に帰る途中で妖に追われて…」
「村?」女が
しまった、外の人間に村の話をしてはいけないと口すっぱく言われていたのに、つい口を滑らせてしまった。
「すみません、ちょっと混乱してるようで、頭も打ったし…うう、そういえば僕は誰なんだ…」
「そうなの、それは困ったわね」そう言うと女は手近にあった、成人男性の頭くらいの岩を持ち上げ振りかぶった。
「うわあああぁぁぁーー!な、何するんですかぁ!?」デュマは両腕で頭を覆い後ずさる。
「え?もう一度頭を打ち付ければ思い出すんじゃないかと思って」本気か嘘かわからないことを真顔で言い
「死んじゃいますよ、馬鹿!」
「む、人の親切心に暴言で応酬してくるなんて…あんたに歪んだ教育をした親に文句の一つも言ってやらないと、本当にこの岩をあんたの頭めがけて振り下ろしかねないわね」
村の大人たちが言っていたことは本当だったんだ。外の人間は妖より恐ろしいって…。
「うわぁー、不思議だな。全部思い出した。僕の名前はデュマ、十五歳。この近くにあるナイカ村に住んでます。助けていただいて本当にありがとうございました。それじゃあ、もう二度と会うことがないよう願ってます、さようなら」
完璧な礼と
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