渡りの回廊2〈サラディンからの使者〉
第10話
イズールは自分の
場所は王都ヨミステリにほど近い、大陸有数の樹海の一つだ。樹海といっても人の手がある程度入っており、冒険者はもちろん行商人や旅行者も利用する、今や交通輸送になくてはならないものとして認知されている。
というのは表向きの触れ込みで、実際のところは草木による
イズールや姉のミレイは、
今日も
旅路は順調だった。姉の
「…近道?」
このペースならあと三時間も歩けば家に着くな。ミレイの提案は、そう考えていた矢先のことであった。
「そう。このまま道なりに行けば家に着くのは夕方くらいになるでしょ?でも森をつっきて直進すれば一時間は短縮できるわよ」ミレイが、どうだこの
「いいよ俺は…ごめんな、俺が
大体、この手の姉の思いつきに付き合って、今まで損をしなかったことは
そこで今回は、思い遣りを持って相手を突き放す作戦でいこうと考えたのだ。こうやって姉にも少しずつ、人間の優しさや気遣いを学んでいってもらおう。あわよくば動物並みの母性でも
「あ、あんたそうやって
「ちっ!」勘の良さだけは動物並みのミレイが鋭く指摘する。
「大丈夫だって!もう何度もそうやって帰ってるんだから。お姉ちゃんを信じなさい」
「………」
ミレイがこうやってお姉ちゃん風をびゅうびゅう吹かすときは特に要注意なのだが。
イズールの
「おかしいわね」
「え?」
森に入り三十分ほど歩いた頃、ミレイから
「もしかして迷ったのか?もう?まだ三十分くらいしか歩いてないんだぞ!」
「ちょっ、違うわよぉ…人聞きの悪いこと言わないでくれる?」珍しく反論が弱気だ。
どうやらこれは、いよいよ
イズールとミレイの着替え、読みかけの本、雨具、簡易テント、携帯食二食分が二人前…次々と思い出したものを頭に書き出す。ミレイの持ち物は、たすき掛けした小さな鞄だけで、他は全てイズールの大きなリュックに押し込まれていた。
いま生命線を握っているのはイズールということになる。絶対に死守しなければ。リュックの肩掛けを握る拳に自然と力が入る。
姉に渡しては
それを
「自分が何をしようとしてるのかわかってる?」
「な、何がだ?言いがかりをつけるより、早く道案内してくれよ!」背中に冷や汗を流しながらイズールはきっぱりと言い切った。こういう時は決して動揺を見せてはいけない。
「ひっ、
「やっぱり迷ったんじゃないか!」イズールはたまらず声をあげ、ミレイの両肩をがっしりと
ミレイは気まずそうに視線を明後日の方向に向け、何が何でもこちらと合わそうとしなかった。
イズールがさらに追撃しようと息を吸い込んだその時――
「ふぎゃあああああああああああああああぁぁぁあああああぁぁあっぁぁぁぁぁぁ」
突然の
「…熊?」声の方角に首をやりミレイが呟く。
「いや、あんな鳴きかたするか、熊って…多分人間だと思うけど…」イズールも自信なく発する。
それを聞いたミレイが顔を輝かせ、駆け出した。
「そりゃ大変だ!人助けも冒険者の
一瞬でトップスピードに達したミレイは、数秒後にはイズールの視界から消えていた。
「嘘だろ、おい」
必死になって追いかけるも差が縮まる様子はない。それどころか自分がどの方角に走っているかもわからず、遂には荒れる呼吸を
この時ばかりは、大嫌いな
(これで
日が暮れようとしている。予定では今頃は風呂で汗を流し、
イズールはそんな妄想の中の
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