第8話
全身に
意識が薄れ、一瞬気を失っていたようだ。放たれた
「
外傷はないが全身を打ち付けたようで、体も意識も立ち上がることを拒絶するように言うことを聞かない。
(ふざけんなよ…!みんなは…姉さんは無事か?)ゆっくりと体の
体はまだ大丈夫そうだ。だが霊威形象に
ならば攻めに転じるしかない。敵もあれだけの高威力の術をなんども連発はできないだろう――そう願うしかない。
霊威形象を近接戦闘用に展開する。上空に
舞い散った
(狙いが逸れたのか…?)
何らかの理由で直撃を逃れたのだ――決まっている、ミレイだ。
イズールはゾッとした。狙いが逸れたから摩天楼涯廓で防ぎきれたのだ。直撃ならどうしようもなく死んでいた。
『予期しない事態です』
音声の方向に意識を向ける。突然の攻撃に対応できるように重心を移動する。
『
(この調子じゃ、やっぱり連発はできない。なら再充填までにケリを着けないと)イズールは意を決して飛び込む。
敵はこちらの動きに気付き
こちらの
「はぁっ!」息を吐き拳にさらに体重を乗せる。
メキメキと
イズールは敵の体を
しかしその動きは読まれていたようで、イズールの着地を狙うように敵も
イズールは両前腕で顔を守るために覆い、少しでも威力を殺すために着地と同時に後方に
だが敵の攻撃はイズールに届くことはなかった。ブルが横から体当たりを食らわせ、敵の態勢を崩したのだ。
「無事か!?」ブルは敵から視線を逸らさずに訊いてくる。
「ああ。礼を言う、助かった」イズールは跳び起きる。「他の人は?」
「生きている。だがミレイだけが見当たらない」
「そうか」正直なところ姉に関しては全く心配していなかった。人間離れした姉がこの程度で死ぬなど考えられない。そんな人間みたいなことを、わざわざこの
「こいつは俺が
「…わかった」
何か言いたそうな様子ではあったが、
『影律残量五割まで充填完了。
その複雑な影律構文にイズールは絶望的な気持ちで対抗構文を組み上げる。
(クソッ、駄目だ間に合わない)
その時、上空から
召喚された光線が影を飲み込むかに思えた。だが、そうはならずに影は光を引き裂き、二つに裂かれた光線が壁を薙ぐ。
こんな芸当ができるのはこの場に一人しかいない。
壁が崩れ、その
護り化身は
それが合図であるかのように、護り化身は粉々に
きっとここにいる誰もミレイが何をしたのか理解できなかったはずだ。イズールもそれは同じではあったが、危機は去ったのだということだけは理解できた。
そして理解した瞬間にその場に崩れ落ちた。
「あんた大丈夫?」ミレイが軽い足取りでこちらにやってくる。
「駄目だ、腰が抜けて立てねぇ…帰りは負ぶってくれ」
「なっさけな」
「俺たちが死にかけてたってのに、今までどこで何してたんだ?」
「最初の
それで空から降ってきたわけかと、イズールは
「まあなんでも良いじゃない。全員生きてるんでしょ?」あっけらかんとした笑顔で立ち去る。
「はぁ、まったく…」そのあとは言葉にならなかった。
「いったい何があったのか…」ロウ=サーが捻(ひね)った足に添え木してもらいながらこぼす。
「敵を退けた…それだけよ」ミレイは面倒臭そうに答える。
「いえ、そうではなくて…虚影律の熱波を切り裂いていたように見えたのですが…」ロウ=サーの疑問はもっともだった。
ミレイが成し遂げたことは影律士にとって常識を根底から覆すことだ。虚影律に対抗できるのは虚影律か影律兵器くらいだ。
ミレイの愛用している双剣「
そもそも影律兵器は一般的に、影律士でなくとも、それを使うことで影律兵器に込められた虚影律を使用することができ、さらに発動までの時間が短いことが利点だと理解されている。
だが無常輪廻は他の者が使っても影律兵器としての恩恵を受けることはない。なぜならこの武器に施された虚影律は、シキ家の血族の人間が扱っても壊れないというものだからだ。
「普通、影律兵器は簡単に壊れる
「そうです。影律兵器自体にも強力な防護の虚影律が施されています。だからミレイには、シキ家の血族には普通の影律兵器は扱えないのです」
イズールの説明に、その場にいるほとんどの者の顔に疑問符が浮かぶ。これが正しい反応だよなと思いながら話を続ける。
「シキ家の血族には〈
禊術――先史時代にシキ王家に新たな王として
だが禊術のおかげで幾度となく危難を乗り越えてきたことも確かではある。この能力があるからこそミレイは護り化身の虚影律を裂き、防護装甲を破壊することができたのだ。
もちろん欠点もある。それは、影律兵器のほとんどを扱えないということだ。禊術を
「普通の武器では駄目なのか?」
「普通の武器じゃあ私の扱いに耐えれないのよ」ブルの疑問にミレイが右手をひらひらさせながら告げる。あまりの返答にブルは開いた口が
「ではシキ博士は、禊術と
「ああ、私は養子ですからシキ家の血は一滴も混じっていません」
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