ミクロカノニカルアンサンブル

ジャックと豆の木

あるところに、ジャックという男の子が住んでいました。

お父さんは医者で、お母さんは専業主婦でした。

しかしお父さんは、2014年に阪神がクライマックスシリーズ優勝したときにハッスルして道頓堀川に飛び込み、溺死しました。

稼ぎを失ったジャックの家庭は貧しく、生活保護を受けて生活していました。

お母さんは「生活保護で子育てー母子家庭ー」というブログを書いており、よく炎上していました。

ジャックはニンテンドー3DSを持っておらず、またキラキラネームであることから学校でいじめられ、不登校になっていました。

先生に相談すると、教育委員会にチクられるのが嫌だから黙っとけと一蹴されました。

ある日、お母さんがパチンコしに家を出たあと、ジャックは自殺しようと樹海に向かいました。

ボロボロの自転車を3時間ほど漕いで、樹海に着きました。

しかし首を吊るロープがないと死ねないことに気づいたので、仕方なく帰ることにしました。

そのとき、光る豆が足元に転がってるのを見つけました。

面白い豆だなぁ。突然爆発して巻き込まれて死ねたらいいのになぁ。

ジャックはそう思いながら、それを自転車のカゴに入れました。

次の日の朝、ジャックは人が騒ぐ声で目覚めました。

窓を見ると、沢山のマスコミが家を取り囲んでいました。

みんなの視線の先に目をやると、文字通り仰天しました。

なんと自転車があった場所から、太い木が雲を突き破るほど高く高く、生えていたのです。

ジャックは果てしなく高い木を眺めて、呆然としました。

リビングに向かうと、母親はパソコンを前にして突っ伏していました。

ニュースの生中継により、瞬く間に身バレしたのです。

「【悲報】大人気子育てブロガーの息子、引きこもり」とスレが立てられ大炎上していました。

「『運動会の練習が大変だったようです💦頑張れ(^O^)』←wwwwwwwwww」

「子供の名前は輀藥衢（ジャック）。頭おかしい」

「親がゴミだと子もゴミ」

「ジャック（笑）と一緒に死んで木の養分になってほしい」

ジャックは自分まで責められていることに腹が立ちました。

だけど引きこもりなのは事実です。

…クズの母親と一緒にされたくない。何とかして見返してやりたい。

ジャックにそんな想いが芽生えました。

ジャックは家の外に出ました。

「家から人が出てきました！！」

マスコミが大騒ぎしますが、ジャックは気にしません。

大きな木に近づき、ゆっくり手をかけます。

そして、登り始めました。

一歩、また一歩と、登りました。

「君！！危ないよ！！」

マスコミが大騒ぎしますが、ジャックは気にしません。

もし高いところから落ちて死んでしまっても、構わない。

この木のてっぺんまで登って、僕をバカにしてきた奴らに見返してやるんだ。

近くのマンションの高さまで来たとき、マスコミの喧騒は聞こえなくなりました。

あべのハルカスの高さまで来たとき、手のひらが血だらけになっていました。

東京スカイツリーの高さまで来たとき、呼吸が苦しくなりました。

上を見上げても、まだてっぺんは見えません。

いよいよ、手を離して落ちそうになりました。

「……まだ…やれる…！」

ジャックは木にしがみつきました。

競馬で1日で2万円失った母親を思い出して、発奮したのです。

必死に木を登りました。

ジャックの人生でここまで努力したのは初めてでした。

どれだけ時間が経ったのでしょう

無心でひたすら登っていると、ついに果てが見えました。

最後の力を振り絞って登り切ると、信じられない光景が広がっていました。

そこはなんと天国だったのです。

死んだ人たちが、まるで現世のように生活していました。

「ジャック！」

後ろから声をかけられたので振り向くと…

「パパ！」

そこには死んだお父さんがいました。

「会いたかったよジャック！」

「僕もだよ、パパ！」

2人は抱き合って再会を喜びました。

ジャックはお父さんのことは大好きでした。

「パパはね、死ぬ前にどうしても叶えたかったことがあるんだ」

お父さんは神妙な面持ちで話し始めます。

「何？パパ」

「それはね…」

お父さんは少しのあいだ口を閉じ、そして意を決して言いました。

「阪神が日本一になる瞬間を見ること」

お父さんの目は輝いていました。阪神は1985年以来、ずっと日本一から遠ざかっているのです。

「ジャック！プロ野球選手になれ！そして阪神を日本一に導いてくれ！

ここまで登ってこれた体力と精神力があるなら、きっと大丈夫だ。

ジャックなら、必ずやれる」

ジャックはその想いに応えます。

「わかった。阪神の選手になる。お金を稼いでママを元に戻して、日本一になってパパを喜ばせる！」

お父さんは泣くのをこらえながら言います。

「パパは嬉しいよ…。パパはずっとここから見守ってるからな」

「うん…！」

ジャックは雲が晴れたような晴れ晴れしい気持ちで、大きな木を降りていきました。

〜12年後〜

【プロ野球写真＆データ選手名鑑】

ジャック（高橋輀藥衢）　２２　投手

08年10月11日（23歳）/ 2年目 / 右投右打ち

176cm・80kg / 大阪府 / 3600万円

①履正社 - 関西大学 - 阪神

②29年1位　③30年3月28日

⑥入団1年目から抑えとして抜擢され、69登板40Sと神がかった活躍で

新人王を獲得。島本斎藤と共にSSJとして阪神の日本一に貢献した。

自身は炎上しないが、母親のブログはよく炎上する。