野球と一切関係ないのに野球で比喩表現するため内容が全然頭に入らない異世界転生 その2
次に目を覚ました時、俺は見知らぬ草原で横になっていた。
「転生、したのか。本当に…」
体を起こして周りを見渡すと、初めてマツダスタジアムに訪れて一面赤色のスタンドを見たときのような、すがすがしい衝撃が広がった。地平線の果てまで続く黄緑色、大地にすっぽり覆いかぶさる水色。
体に触れる涼やかな風が心地よい。思いっ切り深呼吸すると、体の腐敗物が全て出ていくようだった。そして平日の京セラドームのオリックス対楽天戦のように、人の気配がなく静まり返っていた。
自分の身体はトラックに轢かれたことなどなかったように、以前とそっくりそのままだった。服装もそのまま。ただ、ポケットに身に覚えのない紙切れが入っていた。取り出して見てみると、こんなことが書いてあった。
女神からの伝言
1.念じると自身のステータスを見ることができます
2.目の前の道を進むと街に着きます
3.魔物と遭遇するかもしれませんが、弱いのであなたでも倒せます
4.ファウルボールにご注意ください
よくわからないことも書いてあるが、非常に親切で助かる。すぐ死ぬような場所に放り出される異世界転生も珍しくないからな。
「念じるとステータスが見れる…?」
ステータスを見たいと願いながら目をつむって瞑想すると、真っ暗な視界に白い文字がふわっと浮かび上がってきた。
Lv: 6
HP:124
TP:92
STR:17
TEC:26
VIT:28
AGI:31
LUC:14
勇猛果敢
斬撃 Lv1
壊耐性 Lv3
魔法適性 △
対左打者 ○
シュート回転
荒れ球
「おおぉ…!」
正直よくわからない項目もあるのだが、札幌ドームの電光掲示板のように詳細に表示されるデータに興奮した。魔法適性があまりないらしいのは残念だが、それ以上に異世界ならではの現象に興奮を隠せない。投球練習するピッチャーが繰り返しボールを投げるように、ステータスを何度も消したりつけたりしていた。
「さて…」
初めての異世界現象に満足した頃、そろそろ街に向かおうかと足を踏み出した。すると金属バットのような棒を踏んで、ホームへ全力疾走した長野が足を取られたようにずっこけた。
「いてっ!…これは?」
足元に目をやると、秋山幸二の髪のようにフサフサに生えた緑草に隠れて、持ち手の装飾がされた剣が無造作に置かれていた。
「これで戦えってことか…」
これから沢山の魔物と戦闘することになるだろう。死にかけることも、最悪死ぬこともあるかもしれない。ソフトバンクの捕手の中で一軍に昇格するくらい過酷な戦いが待っているのだ。
この世界で戦う覚悟を決める。そして、剣を手に取った。
その瞬間、背後から近藤健介のバッティングのような嫌らしい打撃を食らった。
「なっ!何だ?!」
振り返ると、艶めかしく動く水色のゲル状の塊がそこにあった。元の世界ではあり得ない挙動を示す物体に一瞬たじろいだが、恐らくスライムだろう。
異世界でスライムに遭遇するというのは、西武戦にチャンネルを変えると平井が投げてるのと同じくらいお馴染みの光景である。
「くらえっ!」
俺は思い切り剣を振り下ろす。カットボールに掠ってファウルボールだ。
「当たれっ!」
一撃で決めようとフルスイングするも、スライダーに空振りしてしまう。
逃げる球になかなか当てられない。それなら…。
投手の投球モーションからよく見る。リリースの瞬間、球の回転…。これは…!
「スライダーだっ!!」
動きを予測して狙い撃ち。見事に直撃した打球はサヨナラタイムリーとなった。
倒れたスライムは光となって消えていく。そこにはこの世界の通貨らしき銀貨のみが残った。
「…凄かった」
ただのスライムとの戦闘だったが、それでも筒香のサヨナラホームランのように目に焼き付いて離れない。腕には気持ちの良い疲労感が残っていた。
夢にまで見た異世界。剣と魔法の世界。
これから先、どんな出来事が待っているのだろう。
落ちた銀貨を拾ってポケットに入れる。期待に胸を膨らませながら、8回まで完全試合の美馬が9回のマウンドに上がったように、一歩ずつ足を踏み出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます