野球と一切関係ないのに野球で比喩表現するため内容が全然頭に入らない異世界転生 その1
俺は笠原大輔。
どこにでもいる毎年4勝6敗くらいの成績でしれっとトレードに出されて忘れた頃にクビになってる先発投手のような男子高校生だ。
運動も勉強も平凡、目立った特技や趣味も無し、彼女なんて一度もできたことがないという、冴えない毎日を送っていた。
「はぁ、なんかおもしれーことねぇかなぁー。異世界転生するとかさぁー」
高校からの帰り道、こっちの先発が初回3失点した上に相手の先発が千賀だから勝てねぇじゃんつまんねーと席を立ってアテもなく球場を一周するときの気分で、そう呟いた。
見慣れた公園の横を通る。昔はここでよく友達とドッチボールしてたなぁと、何となく感傷的になった。将来の事など何も考えずに遊び倒していたあの日々が、懐かしい。
今はそこで子供たちが、鈴木誠也が自分の鼻毛を引き抜いてバティスタに投げつけているようなご機嫌で、ワイワイと鬼ごっこで走り回っていた。いや、鬼ごっこではなくケイドロかもしれない。もしかすると隠れ鬼かも…。
そんなことを考えながら、俺は赤信号の横断歩道で立ち止まる。
すると背後から、公園の外に出て駆けてくる子供たちが現れた。三塁とホームで挟まれてしまいバッターランナーを何とか二塁に進めるために時間稼ぎしたい三塁ランナーと、それを追いかけるボールを持ったキャッチャーのように、必死に追いかけっこしていた。
まさか道路には出ないだろうな…?
という嫌な予感は、的中。逃げるのに夢中になっている子供は、信号など目にくれず横断歩道に飛び出す!
そして…運悪く向こうから、佐野皓大のような超スピードで大型トラックが向かってくる!
「危ないっ…!」
キャッチャーフライを追いかけるためにマスクを脱ぎ捨てて跳ね上がる小林誠司のように、俺は咄嗟に横断歩道へ飛び込んでいた。
子供は助けられた。
しかし俺は助からない。
顔を横に向けると、トラックはすぐ目の前に迫っていた。
走馬灯を見る暇もなく、俺はマートンから強烈なタックルを喰らったような衝撃を受け、体中が破裂してしまいそうな痛みとともに、意識が途絶えた。
…死んだ。
…死んだのか、俺?
不思議と痛みはない。もう死後の世界に送られたのだろうか。
光も音も感覚も、何もない真っ暗な闇の中で、意識だけがフワフワと漂っていた。
…死んだのか。
つまらない人生だった。だけどまだ生きていたかった。先発再転向後初ピッチングの山本由伸がソフトバンク相手に9回100球1安打無失点と神がかったピッチングを見せ、延長に入ってからもリリーフ陣が無安打に抑えるも、延長12回0-0引き分けになった試合を見ていたような虚無感に襲われる。
………………………。
「笠原、大輔さん」
「ふぇっ!!??」
どのからともなく、突然声が聞こえてきた。不意を突かれてあまりに驚いたので、変な声が出てしまった。
「あなたの脳内に、直接、語りかけています」
そりゃあ、死後の世界であればそんなこともできるだろう。しかし聞こえてくる声が、千葉ロッテマリーンズの本拠地であるZOZOマリンスタジアムでウグイス嬢を務める
「あなたは神様ですか?」
谷保さんの声と対話を試みる。
「はい。名前は明かせませんが、人間の魂を導く、女神です」
ゆったりとした特徴的な、谷保さんそっくりの口調で答える。スタジアム中に声が反響するように、女神の声も脳内に反響していた。
しかしトラックに轢かれたあと女神と接触…。このお決まりパターン、もしかして異世界転生ワンチャンある?
「いちばん!センター! おぎのぉー↓、たかしぃー↑!」
女神がいきなりアナウンスを始めた。
「はい?!」
「間違えました!」
ちょっとおちゃらけたトーンでそう言った。
どう間違えたらそうなるんだ。まあ女神がポンコツなのはよくあることだから…。
「あなたは、この世界で、死んでしまいました。しかし、魔法が使える世界で、生き返ることができます」
「マジで!?」
心臓が跳ね上がるように喜ぶ。これは本当に異世界転生できるのでは!?
「このまま、成仏しますか?それとも、生き返りますか?」
谷保さんの声が俺に覚悟を問う。
本当に異世界に行けるチャンスが来るなんて、オリックスが優勝するくらい有り得ないと思っていた。このチャンス、逃す訳がない。
俺は柳田のフルスイングのような力強い声で、宣言した。
「生き返りま
「よばん!でぃーえいち! さぶろぉぉぉーーーーーーーーーー!!!!!」
「はい?!」
「間違えました!」
俺の宣言がサブローにかき消された…。というかこの女神、谷保さん本人では?
「では、魔法が使える世界へ、転生させていただきます」
あ、ちゃんと通じてたのか。
「よろしくお願いします!」
「笠原さんの次の人生が、より良いものになるように、お祈りいたします」
谷保さんの声が聞こえ終わると、球場を一周したヒーロー選手がベンチに去っていくように、自分の意識が消えていった。
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