感動のラスト

 俺は何でここにいるのだろう。

 俺は何で生きているのだろう。

 俺は何で…。


 そんなことを悶々と考えていると、突然ジャパネットたかたが目の前に現れた。…あり得ない。なぜならここは大学の図書館であり、普通ならこんなところに現れるはずがない。

 そう思ってジャパネットたかたを凝視するが、間違いなくジャパネットたかただった。ジャパネットたかたはTHE・ジャパネットたかたという風貌をしており、どう見てもジャパネットたかたの顔をしていた。完璧に完全にジャパネットたかただった。


 ずっと黙っていたジャパネットたかたは、いきなり口を開いていつもの甲高い声を発する。

「今回ご紹介するのは、このエアコン!!!見てくださいこのボディー!!!」

 ジャパネットたかたが指を指す方向に目を向けると、そこにはエアコンがあった。とはいえ、元から図書館に設置していたエアコンだった。

「こちらは特殊な機構になっておりまして、なんとマイナスイオンだけでなく量子ビームも放出するのです!さっそく電源を入れてみましょう!」

 そう言ってジャパネットたかたは、謎のリモコンのスイッチを入れた。エアコンが起動したかと思った瞬間、量子ビームにより図書館に存在するあらゆる物や人が瞬く間に崩壊していった。


 どうしてだろう。

 どうしてこうなったのだろう。

 消え行くジャパネットたかたを眺めながら、俺は走馬灯を見ていた。この人生、何もいいことがなかった。学校の成績はいつも真ん中、運動は体力がない、仲のいい友達は1人もいない。

 やりたいことも何もなかった。強いて言うなら、近所の山田さん家の芝犬と毎朝顔を合わせることだけが楽しみだった。

 あの芝犬とは中学校に入学した頃に初めて出会った。あの頃は小さくて可愛くてやんちゃだったのに、今ではもうすっかりヨボヨボのおじいさん犬だ。俺が山田さん家の前を通るたびに、庭の犬小屋で寝ていた芝犬はこちらに寄ってきた。芝犬がしっぽを振って嬉しそうな表情をするのを見るだけで、誰にも愛されない俺は生きる元気をもらっていた。


 そういえばあの芝犬の名前、聞いたことがなかった。なぜだろう?今まで興味がなかった。心さえ通じ合っていれば、名前なんて必要なかったのだろう。

 でも今は知りたい、芝犬の名前を。芝犬の穏やかな性格も、芝犬がりんごを好きなことも、芝犬が寒いのが苦手なことも知ってる。だけど名前だけは知らない。

 これほど何かを求めたことがあっただろうか。せめてこの世界から消え行く前に、知りたい。


 意識が完全に飛ぶ寸前、神が呼んだ奇跡だろうか。

 芝犬が目の前に現れた。会いたかった、最期に。会えてよかった。

「今まで、ありがとう。俺なんかを愛してくれて、ありがとう」

 ヨボヨボの芝犬は、少し嬉しそうに尻尾を振った。


 そして俺は、最後の言葉を口にする。



「君の…名は?」

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