第3話 この道は シマちゃんとヒロちゃんのお話

主人公

 シマちゃんとヒロちゃん


キーワード 

 風

 海

 尾道


タイトル『この道は』


この道はいつか来た道。

もうどれくらい経たったのだろう。


時は過ぎても、この潮風の匂いは変わらない。

灰色の水平線も、あの頃と変わらず、空と海の境目をはっきりとさせることなく、行方をくらましたままだ。


夏ももう終わりだ。風が冷たい。


浜辺に叩きつけられて、白く泡立った波の先端を、冷たい風があおり上げ、空へ連れ去っていく。


私は、会いに来た。


幼かった私は、いつも小さな小箱の中に隠れて暮らすような、そんな窮屈な毎日を送っていた。


弱々しく小さく震えて、いつも何かに怯えていた 。


当然のように何かから隠れて暮らしていた幼い私は、しかし、何から隠れているかも知らなかった。


そうだ、何にも怯える必要などなかった。


君には、置き去りにしてしまった白い翼がある。


私はそれを、届けるために来たんだよ。


私にはもう、この翼は必要ないんだ。


だって、とても高く遠くまで私を運んでくれたんだからね。


だから、私は翼をあげる。


幼かったあの頃の君に、私は可能性を持ってきたんだよ。


灰色の空と海、冷たい風に、固く湿った浜辺の砂。


びゅうびゅうと音を立てて、風が波を巻き上げるように、私と君に吹き付ける。


さあ、受け取って、身にまとって、この美しい尾道の、海に向かって羽いっぱいに、風を受けて飛び立って。


恐れることは何もない。


この立ち込める灰色の雲さえも、その翼で払い、吹き飛ばせる。


君にはできる。

私だけが知っているの。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る