第5話

 テーブルの上に出来たてのお好み焼きが運ばれてきた。

「うちのお好み焼きは油を使ってなくてヘルシーなんですよ。あっさり食べられるから、あなたみたいなスレンダーな女性にもオススメよ」

 お店の女将さんがわざわざ挨拶をしてくれる。最初はお好み焼き? と思ったけど、内装も味も気に入った。

 こと、角沼達也かどぬまたつやはお店選びではいいセンスを発揮する。先日行った創作イタリアンもいいお店だった。


「角沼さんは素敵なお店をいっぱい知ってるね」

「そりゃ、僕の体型を見ればわかるでしょ」

 本当に。もっと痩せていれば話も変わってくるのに。


「亜子ちゃんが褒めてくれるなんて嬉しいな」

「別に……」

「今日は急だったのに付き合ってくれてありがとね。約束とかなかったの?」

「……」

 質問を無視してお好み焼きを頬張る。「美味しい!」そう言って笑顔を返す。

「よかった。亜子ちゃんを連れていきたいお店ならまだまだたくさんあるよ」

もう一度、笑顔を向ける。歯は見せない。青のりが付いてるかもしれないし。


 同僚の友梨に勧められて、との食事に急遽付き合ってみたけれど、やっぱり何を話せばいいかわからない。見た目もタイプではないし、ご飯は美味しくても私のテンションは下がる一方だ。


「亜子ちゃんの会社に来ることになったのは、たまたまだったんだけど、本当にきてよかったよ。仕事もうまくいったし、亜子ちゃんと食事もできたしね」

 こんなに話が弾んでないのに、よかっただなんて変な人もいるもんだな、と思う。男女の関係なんてもっと単純で、出会って盛り上がって付き合って、そして幻滅して終わっていくものだと思うけど。

 盛り上がりも付き合うこともなく、ただデートを重ねるこの人は、何が目的なのか考えれば考える程わからなくなる。友梨は「亜子のために行ったほうがいいと思う」って言っていたけれど……。彼女の考えることはよくわからない。


 基本的に「美味しい!」しか口にすることなく、お店を出た。

「それじゃ亜子ちゃん、今日はありがとう。また連絡するね」

 男性向けのボリューミーなお好み焼きを一人で食べたは、私を駅の改札まで送るとさっさと帰っていった。


 明けきらない梅雨の曇り空が夜を覆っていた。

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