第3話
カウンターの右隣でデート相手の男が肉やら揚げ物やらを頼みたそうにしている。頼めばいいのに。その瞬間に帰るけど。
最初に会った時は、ダークグレーのスーツ姿で今より幾分マシに見えた。今日の誘いにのったのは失敗だったかな。明らかに私とは不釣り合いの男。話の内容とお店選びのセンスはいいけど、あまり近くに寄りたいとは思わない。立って並ぶとヒールを履いた私よりも明らかに小さい。それでいて横幅は私の二倍はある。さっき乗ってたエレベーターの中でも、私と彼はあからさまに見られていた。
二十八歳、受付嬢、自他ともに認める個性派美人。私が街中で注目を浴びるのはよくあることだが、今日の視線は嬉しくない。
二ヶ月前、元彼に言われた。お前はつまらない。だからこちらから別れてやった。
考えれば歴代彼氏に言われてきた。お前は顔だけ。中身がない。その度にこちらから別れ話を切り出した。そうすればどの男も追いかけてくる。だけど一度馬鹿にされたら、もう二度と元に戻るつもりはない。
中身がないだなんて、覗いてみる気もないくせに。どうせ私との付き合いで優位に立ちたいがために言い放った言葉だろう。その証拠に私は男を切らしたこともなければ、相手から別れを切り出されたこともないのだ。
フリーになった今だって、毎週末の予定はデートで埋まっている。一人の男と付き合うよりも、こうしていろんな男とデートしていた方が、美味しい思いができるかもしれない。
最近はそんな思いもよぎるようになった。
結局今日の男は、肉も揚げ物も注文することなく、家の近くまで車で送ってくれた後、「またね」の一言で紳士に別れた。
室内着に着替え、外を出歩くときの鎧のようなメイクに洗顔料をなじませている頃、携帯電話がメッセージの着信を知らせた。私はそれを無視してお風呂へと向かった。
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