第2話
結局のところ、今夜の夕食は創作イタリアンに決まった。「揚げ物以外」なんて彼女の要望は結局、「どこでもいい」と言っているのと大差ない。その辺の居酒屋に入って揚げ物メニューを無視すればいいだけの話だ。
エレベーターを降りてからも、彼女は俺と微妙な距離を取り続けた。二人で歩いていることは傍目から見てもわかるだろうが、手をとろうとすると不格好になる距離だ。元々釣り合いのとれない若く美しい彼女と不細工な俺。並んで歩いているだけですれ違う人の視線が痛い。これ以上無様になるつもりはないので手はとらないでおいた。
ただ、間違っても居酒屋(揚げ物を除く)を選択肢にあげるわけにはいかない。インターネットの評価などを餌に、事前にリサーチしておいた冒頭の店へ彼女を誘導することに俺は成功した。
席について乾杯酒にシャンパンを頼んだ後、メニューを彼女に渡した。今の所、俺の武器は財力しかない。どれでも好きに選んでくれ。忘れた頃にフリットを頼んでやる、と心に誓う。
彼女に頼まれウェイターを呼ぶ。
「注文いいですか」
一言発してから彼女にバトンを渡す。
「半熟卵のシーザーサラダ」
彼女はそう言ってメニューをたたんだ。
「それだけ? もっと頼もうよ」
「うーん」
「これとか美味しそうじゃん」
「うーん」
「……」
「あ、とりあえずそれだけで。また呼びます」
俺はウェイターにそう告げ、彼女からメニューを奪う。今すぐにでも帰りたいオーラの彼女を無視してオススメのメニューを端から端まで確認する。
ちょうどウェイターがシャンパンを運んできた。
「すみません、桃のカプレーゼ」
「え、そんなのあった? 私、桃好き」
よし。どうやら正解を選べたようだ。
夕食に少し乗り気になった彼女とグラスを合わせる。これから何を話すか。全てにおいて正解しないと、この次はありそうにない。
俺はフリットを諦め、きついジャケットを羽織り直した。
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