第9話


【ライ視点】

  今まで感じた事のない嫌な苦み臭みが口中、はたまた体中に広がり、それと同時に大量の記憶が脳に溢れ出してきた。

 思い出したと同時に思わず身体まで戻りそうになってしまった。

 それをなんとか理性で封じ込め目の前のユウジと目を合わせる。

「よっ。相棒」

 ほっとするような、ユウジの間抜けな声に思わず笑ってしまったライ。

 その時、何かが体当たりしてきた。

 ライは尻餅をついてしまったが何とか受け止める。

 ぶつかってきたのはナオコを追っかけて、夢中になっていた美津だった。

 目の前に美津の顔。



 だけど今はこの少女があの時の、小さいあの子と分かっている。

 自分の顔が熱くなるのが分かる。

 動機も自然と速くなる。



「あっごめん」

 美津がライの上から慌てて降りた。

 ライの様子がおかしいことを不思議に思いながらも美津は興奮収まらず捲し立てた。

「見て見て、竜(ライ)、この子(ナオコ)背中にリボンの模様があるのよ」

「そ、そうだね」

 戸惑いながらもナオコとユウジを見たライは事の重大さを思い出す。

「ごめん、僕、ちょっとトイレ」

 そう言って席を立った。

 ユウジはコソっと、美津がナオコに気を取られている内にライのポケットに入り、『後から来いよ』とナオコに伝えた。




 ここはほのぼのホームの外。

 辺りは真っ暗で静まり返っている。

「よう相棒、無事だったな」

 ポケットから顔を出したユウジがライに語りかけた。

「ごめん、心配かけちゃって」

「本当だよ、もう時間ねーぞ」

 ユウジの顔の冷や汗はまだ消えていない。

「だけど、ここ人手が足らなくて僕なんかでも役に立つんだ。」

 ライは必死だった。


 もちろん自分のしなければいけないことも分かっている。だけど院のお爺ちゃんお婆ちゃんの顔が頭から離れない。


「生命の実が入ったリュックどうした?上手く行きゃ、まだ間に合う。全部、上手くいくかも」

 ユウジのいう言葉に半信半疑にライはリュックの中の生命の実を取り出した。

 その時、昨日の事を思い出した。

 生命の実は熟してなかった黄緑色が、金に近いオレンジ色になっていた。

 生命の実は優しく淡く光っているが昨日とよさんがかぶりついた為、一口分欠けていた。


 僕はとても重大な事をまたしでかしてしまった。


 頭と顔が真っ白になるライ。


 その時空が淡く赤く光り、祠堂様の大きな顔が現れた。


「ライ、いつまでかかっている。もう時間がない。行くぞ。」

 空から祠堂様の長い腕が伸びライ達の目の前に掌を差し出された。

 ライは蒼白になりつつ祠堂様の手の平に乗った。

「私も行く」

 その声はナオコの後をこっそりつけて来た美津の声だった。


 美津の真剣な顔に祠堂は二人と二匹を掌に乗せ上空に上がった。

 高く、高く上へ。


「お前がここまでやるとは思わなかった。一人で飛ぶこともできなかったお前がな」

 祠堂の声は今までライが聞いたことのない優しい、温かい声だった。


「お疲れさん、全部、元通りになるぞ、これで、何とか間に合った。」

 祠堂は上空に上がった所で生命の実を見た、一瞬困った表情をした後、その実を割り、その液体の中に袋から取りだりたを癒し土の元と混ぜる。そしてそれを星全体に振り撒いた。


 キラキラとした粉が地球星全体を包んだ。

 淡く淡く光る地。


「やはり、熟しが足らなかったか、ライお前の力を借りるぞ」

 祠堂はライの胸にもう一方の手の人差し指を当て、念じた。

 もう一度地球星全体が光り輝いた。


 同時にライの意識は飛んで行った。





【美津視点】

 目の前で起こったことが信じられなかった。

 祠堂の大きな掌の中で意識を失った竜(ライ)を慌てて支えた。

 だけどあまりの重さに掌の中で倒れそうになった。

 その時、竜(ライ)の体が青く包まれ一瞬だけ軽くなり大きなトカゲの様な姿に変わった。人間の子供サイズのトカゲだ。

 美津はその姿に見覚えがあった。

 あの時の私を助けてくれた巨大なヘンテコ竜だ。

 あの優しい目元の皺。

 竜(ライ)があの竜だったんだ。

 とんでもないことが起こっているのに、何故か納得している自分が居た。

 5分くらいトカゲ(竜のミニチュア版)の姿だった竜(ライ)また再び人間の子供の姿に戻った。

 戻ったと同時に支えきれず祠堂の掌の中で二人して座り込んだ。

 美津は竜(ライ)の身体を支えながら胸のドキドキがおさまるのを待った。顔を上げるとにっこり笑う祠堂の大きな顔と目が合った。

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