第7話

【ユウジ視点】

 ある建物の横をカブトムシが二匹飛ぶ。

 地球星に着いた二人は二人とも通常のカブトムシの大きさまで身体を小さくしていた。

 ナオコの背中には小さく赤いリボンのシミがある。

「探すったってどうやって探すよ?ここに着くまでにかなりの時間くっちまったぜ?」

 困った顔の俺を見てナオコちゃんが呆れ顔で笑う。

「何のためにこの角があると思ってんの?」

「そりゃー、こ~男らしさを見せる為?」

 ユウジは紐のような細腕に力瘤を作ってみせる。もちろんほとんど膨らんでいない。

「違うでしょ?もう星をちょっと離れただけでそんな事も忘れてしまったの?」

 頬を膨らませるナオコちゃんは可愛い。

 そういやそーだっけな。

 俺達、星の中ではトトンガって生物なんだけど、一応結構色んな能力がある。

 まあ有り過ぎてたまに忘れちゃってるけどね。

 そのうちの一つが、思い浮かべた人がどのあたりに居るか大体、察知できる。

 近くまで来ないと細かいところまでは察知できない。それにもちろん念じないと全然わからないし。

「ほら、ユウジさん早く、急がないと祠堂様とのお約束があるのでしょう?」

「ナ、ナオコしゃん、どうしてそれを……?」

「私に隠し事ができるの思ってんの?」

 妖艶に笑うナオコさん、身体がいつもと違って小さくても綺麗だ。

 思わず、見惚れちまった。

 そう、実はライが見ていない所で祠堂様からいろいろ頼まれ事というか命令と言うか、されていた。

 あれは球地星でライがちょうど人型に変身した日の晩、祠堂様が直接、オイラの頭の中に語りかけてきたのだ。

 本当に主人様(祠堂様)の能力は計り知れない。

 ああ見えて祠堂様はライの事をかなり溺愛している。本人の前では怒ってばかりだが、今回、実はタイムリミットがあるらしい。

 生命の実と癒しの土を祠堂様に届けるまでの期限。色々遠回りしたためか実はもうその期限は後、一週間を切っていた。ライはその事を知らない。

 ユウジは祠堂様の恐い顔を思い浮かべ、ぶるっと身体を震わす。

 ……思わずちびっちまった。

 隣で呆れ顔のナオコさん。

 ユウジは顔を少し青ざめながらライの気配をたどった。

 その時、建物内の窓の中を見ていたナオコと気配を探っていたユウジは同時に声を上げた。

「「居た」」

 窓の向こう側にはお年寄りと笑っているライの姿。

「生きてた」

「当たり前よ」

 呟くユウジを軽くナオコが叩く。

 叩かれ慣れたものでユウジは左程気にしていない。

 でも一体どうしたことだ?

「まさか頭でも打って記憶飛んじまったっとか?」

 茶化しながら呟くユウジに。

「そのまさかみたいよ」

 ナオコが呟いた。

 途端にユウジが慌てだす。

「えらいこっちゃ!えらいこっちゃ!もう時間がない全然ない困った困った」

 ユウジは木の葉から葉へと自分の手をかじりながらオロオロと飛び回る。

「こうなったら最後の手段ね」

「な、何?」

 ナオコちゃんが輝いて見える。

 救世主ナオコ。

 ユウジはナオコに大いなる期待を注ぐ。

 ユウジのいつもは細い目が今は迸らんかばかりに見開かれ潤んでいる。

 神妙な顔つきになりナオコが小声で話す。

「聞いた事があるの、球地星で記憶障害を起こしたものが在るモノを飲み込んで記憶を取り戻したと……」

「ふむふむ、で、それは一体?」

 ナオコのあまりの神妙な顔つきにユウジの喉がゴクリと鳴る。

 ナオコの表情はさらり陰りを増し迫力満点だ。

「トトンガの雄よ」

 ああ、トトンガの雄ね、そうかー……。

 ユウジは一度脳で聞き流した後、いつもよりも数倍の速さで頭を整理した。

 つ、つまり俺?

 ユウジは「ムンクの叫び」の様な表情をし大量に失禁した。


「まあ、正確にはトトンガの雄の腕のヒレを煎じて飲ませるんだけどね」

 ぼそってナオコは呟いた。

 数秒後ナオコの呟きがユウジの脳に到達し

「ナオコちゃんのサド」

 力なくユウジは呟いた。





【ライ視点】

 ほのぼのホームに来てから一週間が過ぎようとしていた。ライは知らない事が多すぎて戸惑ってばかりだった。

 だけど、周りの優しさに助けられ、ここの手伝いが出来るほどに成長していた。


 現在、このホーム内はとても深刻な事情を抱えていた。最近遭ったらしい自然災害によって街からここにつながる道路が潰れてしまい完全孤立状態になっているらしい。

 しかし、不思議な事があるもので、食糧や生活に必要な水は毎日どこからか、庭先に届けられているらしい。

 だが、ここで働きづめの介護士達に疲れが出始めていた。

 ライ達は食糧と寝床を分けて頂くかわりに、ここの手伝いをする事にした。

 そうは言っても子供なので大した事は出来ないが、好子さんなんかもう、立派な介護士だ。もともと使用人の仕事をしていたのと器用さが重なって結構良い表情している。そそっかしさは相変わらずだが。


 と言う僕も、ここに来て笑うことを覚えた気がする。毎日、心がポカポカする。

 

 心のどこかで何か分からないが焦りのような警戒音が鳴り続けてはいるが何だか分からず目の前の事をこなすライだった。

 

 一番高齢の由さんがティッシュペーパーを取りたいのか手を必死で伸ばしている。

 ライはすかさずテーブルの反対側に移動し由さんの手の届く範囲にボックスティッシュを持ってくる。

 由さんはティッシュを一枚取り、無邪気に笑い「あいがとう」と言った。

 ちゃんと言葉は発せていないが、今のライには聞き取ることが出来た。

 その表情と言葉を聞いたとき、ライの心はホクホクと温かくなった。

 

 ソファーに座ってるちょっとふっくらしているお婆ちゃん。名前は稲さん。

 いつもにこにこ笑ってる。

 そんな稲さんと目が合った。

 稲さんがライに向かって手を振る。

 ライも振り返す。

 稲さんの顔がくしゃくしゃに綻ぶ。

 こんな些細な触れ合いにもライの心は温まった。

 そうなる度に隅に置いてあるライのリュックの中身が柔らかく光っていたが皆気が付いていなかった。

 一人のおばあちゃん以外……。



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