第6話 小さな女の子との出会い?
【美津視点】
いくら歩いてもあの不思議な光りまで届きやしない。
美津と好子の表情はココに到着した当初よりも疲れきっていた。
しかし、ライと出逢った時のように転んで泥に塗れたりはしていなかった。
転んでしまう前に好子がしっかり支えていた。
慣れない山道、二人とも髪は乱れ、足元もふらつき気味、倒れてしまった木々の所為で太陽が直接当たる為、二人の体力は限界まで来ていた。
朦朧とする意識の中、水の流れる音がする。
美津と好子は顔を見合わせ走り出した。
重なり合い倒れた木々の奥に大きな湖があり小さな崖から滝のように水が流れていた。
湖から生えている大きな木々は倒れておらず無事だったようだ。
「すごいよ。美津ちゃんこの水飲めるかな?」
好子の掌から溢れる水は透き通っていてキラキラと輝いている。
透き通っていてとても美味しそうな水。
美津は小さな掌に水をすくい冷たさを確かめ、ペロリと舐めた。
「美味しい」
思わず呟く。
その言葉を聞いて好子はがむしゃらに自分の掌の水を飲み始めた。
「うめーや、こりゃー生き返る」
あまりの興奮からかまた汚い言葉に戻る好子をくすくすと笑い、美津もそれに習ってゆっくりと水を含む。
靴と靴下を脱ぎ水にばしゃばしゃとつける。
冷たい水温が身体の熱を冷やす。
一時の休息。
大きく伸びをし、寝転がる。
その時、目の中に飛び込んできたのは倒れてしまった草花の間から人間の子供の足の裏らしきものが見えた。
びっくりした美津は好子の服の裾を引っ張る。
好子も気がつき二人で目線を合わせる。
ウンと二人で大きく頷きゆっくりと近づく。
心臓の音がいつもの何倍も大きく美津の中で響いた。
【ユウジ視点】
困った。
地球星に着いたは良いものの、またライとはぐれてしまった。
はぐれたと言うより、ライは地球星に到着したところで人型に、呪文も唱えていないのに変身してしまい、落ちて行ってしまった。
カブトムシ型の掌で支えるのは無理に等しかった。
はぐれるのはいつもの事、でもココから落ちたとなるとさすがにライも死んだな……。
額の汗を拭きながら下を見下ろす。
「なに縁起でもない事考えてるんですか?ライ様はツイ族の血が流れているのですよ、あれぐらいでは死にません」
ナオコの呆れ顔に、今回は自分一人ではぐれた訳ではなかったと安心する。
一人ぼっちじゃなくて良かった。
若干ほっとしつつナオコと向き合う。
「ではとっととライ様を探すとしますか?」
と言いながら、ユウジはナオコに掌をさし出した。
「この手はなんですの?」
「お手をどうぞ?お姫様」
「まあ、たまには洒落た事をするのね」
ナオコはくすっと笑いユウジの手を取った。
【ライ視点】
目を開けると、二人の女の子が自分を見下ろしていた。
一人は大人の人より少し若い感じ、もう一人は子供、とても可愛らしい少女。
なんだろう、彼女を見ると胸が高鳴る。
「あっ目開けたよ?大丈夫?どっか、痛いかな?僕ちゃん、お名前は?」
えっ僕に聞いているんだろうか?うまく言葉が出ない。
ちょっと待てよ、僕ってなんだっけ?
なんか、何がなんだか全然分からない。
僕の名前、僕って誰?
パクパクと口を発しながらも音が出ない。
「あっああ」
声にならない声が出るだけだ。
「なんだろう?熱中症かな?」
好子が少年(ライ)のおでこに触れる。
「んーちょっと熱いかな」
「ちょっと待ってて」
美津は葉で上手く受け皿を作り先程の湖まで戻り水を汲む。
急いでライの下まで戻り水を差し出す。
ライは受け取り口に水を含む。
「あ、あり……がと」
なんとか言葉を発する事ができた。
ライはかろうじて残っていた木々をクッションに上手い具合に着地したものの、記憶をなくしてしまっていた。
「いいえ、どういたしまして、あなたお名前は?」
にっこり微笑む美津に安心するも、心はぽっかりと空いたまま。
名前、分からない。
首を小さく振る。
「ん?言えないのかな?もしかして家出少年?駄目だよ?親に心配かけちゃ?」
「んー美津ちゃんは人のこと言えないんじゃないかな?」
「私はいーの」
美津がぽっぺを膨らまし好子を睨む。
「美津ちゃん……って言うの?」
たどたどしくライが呟く。
「そうよ、あなたのことなんて呼ぼう、私ね、貴方に初めて逢った気がしないの、どっかで逢った事あるのかな?」
「なに、逆ナンしてるの?一丁前に」
さらに好子を睨み。
「違うわよ、ちゃかさないでよ!好子さん」
分からない。この胸の高鳴りは逢った事があるのだろうか、なんだかこのドキドキは尋常じゃない気がする。
だけど、思い出せない。
思い出したい彼女の事を。
【美津視点】
好子さんと見つけたのはとても綺麗な少年、まるで天使みたい。
髪の毛が薄い茶色で太陽に光に薄く透けて、でもたれ目とその下の涙袋がなんだかとっても間抜けというか、優しそうというか、あれこの表現最近どこかで思ったな。
「分かった」
思わず呟いた美津。
そう、あの悪夢の一夜に出くわした大きな目、恐竜のようなでもとっても優しそうな間抜けな怪物に、どことなく彼が似て見える。
だから逢った事ある気がするんだ。
でも大きさからして全然違うし、こんなこと失礼よね……。
ぽりぽりと頬を掻く。
「でも、名前は決まったわ。貴方は竜(りゅう)、どう?格好良くない?」
得意げに言う美津に戸惑いながらも頷くライだった。
それにしても綺麗な子。
ライ(竜)の顔をこそっと横から見上げる。
見た感じ同い年くらいだよね……。でも幼稚園での同じクラスの悪ガキどもと、全然雰囲気が違う感じ、目の色が透き通ったように青い、なんだか吸い込まれそう。
視線がぶつかりライと目が合う。
「なに……?」
ゆっくりめな言葉、言葉を発することに慣れていないようなおぼつかない喋り、歩き方もなんだかおぼつかない、見かけとなんだか違和感を感じる。
目があったことにびっくりしつつ少し首を傾げる美津。
「ううん、なんでもない」
不思議に思いながらもなんとかそう答える。
ライの歩きの不安定さに見かねて好子が手を差し伸べる。
なんとなく自分の眉間に皺が寄ったのがわかる。
ライは優しく笑い好子の手を取り「あり……がと」
そう答えた。
何かちょっとだけイラっとした。
そんな美津を好子が見る。
好子はにやっと笑い、反対の手を美津に差し出す。
なんだか苛立ちは収まらないが好子さんの手を取った。
三人で暫く歩く。光に随分と近づいてきたが、まだまだ遠く三人に焦りが見え始めた。
日もだんだん暮れてくる、お腹も空きすぎて、もう限度を越してしまった。
その時、天の助けか、森が無くなり丘が出てきた。そのただっ広い丘の上に大きな木造の古い建物が立っていた。
立て看板があり「ほのぼのホーム」と書いてある。
三人は目線を合わせ頷いた。
【ライ視点】
二人と一緒になって歩いた。
何も分からなくて不安でたまらなくて、自分は一体誰なのか、どうして二人みたいにすらすら喋れず、しかも上手く歩けないのか、先ほどまでにすでに数回転びかけている。そのたび好子さんや美津さんに助けられている。
なんだかすごく自分が惨めで仕方がなかった。
そうじゃなくても二人は困っているみたいなのに僕は完全にお荷物だった。
足が痛い。
必死に足を前に出しながら目は周りの風景にとらわれる。
荒れ狂ってしまった森の木々を見ると無性に胸が痛んだ。
元はあの大きな姿であるライ。
今は美津や好子と違い、裸足で歩いている。
小さな砂利に顔をしかめる。
「竜君?大丈夫?」
美津は自分のポケットからハンカチを取り出した。
腰かけれる岩を見つけ指を指し、
「そこに座って」
ライを座らせ傷だらけになった足の裏をハンカチで包み縛る。
好子もポケットからハンカチを取り出し反対の足の裏を縛る。
ライは頬を薄い赤で染めながら
「ありがとう」
そう呟きにっこり笑った。
だんだんと言葉もスムーズに喋れる様になってきた。この理由もよく分からない。思い出してきたという事だろうか?
だけど自分が何者なのか、頭は真っ白なままだ。
ハンカチのおかげか随分痛みも和らいだ。
暫く歩くと木々が減り丘のような所に出た、そこには木造の古い大きな建物。
「ほのぼのホーム」と書いてあった。
院の扉が開き、皺クチャクチャのおじいさんを車椅子に乗せ、それを押しながら若い女の人が出てきた。
僕たちと目が合い五人が一瞬、言葉を失う。
「おりょー、本物の天使様が見える。ワシもやっとお迎えが来た、婆さん、今、今行くぞい」
一番初めに声を発したのはお爺さんだった。
付添いの女の人が軽く頭を下げた後、しゃがみ込み、お爺さんの顔に目線を合わせる
「興奮したら血圧が上がってしまいますよ。とても綺麗な方ですが天使様では無いようですよ?外はもう暗いですね?お部屋に戻りましょう」
「そうかのー?」
お爺さんは外を見ながら納得したように少し落ち着いた。
「あなた方は?どうされました?ここは何もありませんが、お困りでしたら中へどうぞ」
女の人の優しい言葉に少し戸惑いながらも中に入った。
院の中は外観より綺麗だった。
少し高台にあったからか浸水などもしておらず土砂崩れなどの被害にも合わないですんだ様だ。
(実際は祠堂の力で寸での所で食い止めたのであったが)
通路が結構広くとってあり、壁側には手すり床は段差がなくフラット。
そうここは老人ホーム。
その事がわかっているのは三人の中でも好子ぐらいだが。
「どんな理由か存じませんが、こんな何もない所に良くおいでなさいました。外は寒かったでしょう?お茶でもどうぞ」
先ほどの女性がそう言いお茶を出してくれた。
リビングにはお年寄りが十人。職員さんは先ほどの女性とちょっと小太りの男の人の二人。
お年寄りは車椅子に乗っている人が四名。椅子に座ってる人が四名で楽しそうに歌を歌っている。ソファーには二名、テレビを見ている。
疲れ切っていた僕達は温かい言葉に安心して、背負っていたリュックを置き、その場でへたり込んでしまった。
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