第5話 生命の実を探せ
【美津 視点】
街中を越え、再び山の中を進む一台の車、酷い荒れようの木々を見ながら美津は 昨日の悪夢は現実だったと確信した。木々たちが倒れているのを見ると心が痛い、木々たちの悲鳴が聞こえてくる気がした。
(ゴトンガタッ)
大きな音が鳴り、車が止まった。
「な、何?目的地はココなの?」
涎を拭き、驚いたように好子が目を覚まし身を乗り出してきた。
好子は車が発進した当初は、ぎゃーぎゃー騒いでいたものの、危なくない事が判明した後、疲れと安心と持ち前の呑気さが手伝って、居眠りをしていた。
「そうなのかな?」
美津はメーターを見た。ガソリンのマークが0を表示していた。
「ガス欠……」
ボソッと呟き項垂れる。
「何?電気自動車なのにガス欠?!」
敬語じゃなく言葉が汚くなった好子の声が山の中で木々を震わせ木霊した。
そう、この車、電気自動車とは名ばかりで、原動力の三分の1はガソリンだった。
しかし、項垂れはしたものの、今回の美津には笑顔が見える。
好子の存在、おでこの血管が浮き出た面白い顔に和んだのだろう。
車から勢いよく飛び出し半ズボンを軽く払う。
まだ日は明るい。
あの子、あのお間抜けな竜?にまた、会えるだろうか……。
倒れなかった木々から光が空け、遠くのほうが淡く光り幻想的だ。
夕べはもっと荒れ狂っていたように見えたのに、優しい空気に感じる。
後ろに好子が立つ。
「で、お転婆お嬢様は何処に行きたかったのかな?」
呆れ顔で呟きまわりを見渡す好子。
どうやら肝が据わり美津の冒険に付き合うらしい。
もともと男勝りな気がある好子、山登りはお手の物だった。
「えーと……宿題のノートを取りに……」
実は真っ赤な嘘だった。
しかし6歳にしては賢い少女だった美津は正直に話しても信じてもらえない事は分かっていた。
「そっか……、それにしても、ここ大嵐でもあったの?この木まだ若そうだけど」
倒れてしまった木の節目をなぞりながら呆然と、荒れた木々草花の風景を眺める好子だった。
【ライ視点】
あの後、人型になったライはあまりに今までと違う見た目の空間に興奮していた。
先程まで見ていた空間と同じもののはずなのに目線が違うだけでこんなにも見え方が違う。
なにより自分が動いても何も物を壊さない!
ライは嬉しさがこみあげてきて軽くその場で足踏みをゆっくりと地面に座る。
横になり間近にある花を覗き込む。
お花がこんなに近い。
上を見上げる。
空や雲がこんなに遠い。
ナオコとユウジはそれを温かく見守った後、自宅に案内した。
お風呂に入る時、食事をする時、普通に歩くだけでも誰にも迷惑をかけない。
ライは心から喜びをかみしめていた。
次の日、まだまだ興奮は収まりきっていないライだったが、ユウジの自家用ジェット機に乗り込み目的地に向かい空を飛んでいた。
ライは自分の力以外で空を飛ぶのは初めてで意外に揺れる機内に戸惑っていた。
ナオコがマメに掃除をしているのか思ったより綺麗だったが、ユウジ特有のツンとくるような苦い様な匂いが漂ってくる。
そのライの眉間にうっすら皺がよった様子にナオコも顔を顰める。
「ごめんなさいね、こんな匂いで……どうしても取れなくて」
お花の香りと書かれたスプレーを撒き苦笑い。
そんなナオコと目を合わせ、笑顔を作り呟く。
「大丈夫だよ、ありがとう」
そんな二人の会話は全然聞いていないのか口笛を吹きながら上機嫌でマイジェットを走らせるユウジに再びため息をつくライだった。
「おっ、地図と似たような景色が見えてきたぜ?止めるぞ、しっかり掴まれよっと!」
凄い揺れと音が鳴り響きながらジェット機は陸地に到着した。
ライは数回壁に頭をぶつけたようだ、きっとシートベルトをしていなければ外に飛び出していた事だろう。
その点、ナオコは流石、慣れているのだろう、ちゃっかりつかまり無傷だった。
「ライ様、ごめんなさい、言うの忘れてました、でもそんな時のために良い薬があるんです。」
ナオコがエプロンのポケットから取りだしたのは、怪しげな緑色の液体。
ナオコの手のひらで粘々と糸を引いている。
「えっと……」
戸惑い少し距離をとるも、にこにこ顔のナオコには逆らえないライだった。
目の前に広がった景色は大きな砂漠の中にある、澄んだように透き通る湖とその傍にある大きな木だった。
木の葉は青く茂りとても大きい、それに負けじと直径30cmぐらいの大きな実をつけている。
「ライ様、これが、球地星、名物、1世紀にひとつしか実をつけない、生命の実です。」
ナオコが誇らしげに紹介する。
だが……ライは地図に載っているものとどうしても同じものと思えない。
何故なら地図に描かれている生命の実は金色で、生っている実はどうみても黄緑色だったのだ。
「ナ、ナオコさん……」
ライは地図と見比べナオコを見る。
「ええとですね、まだ実が熟してないみたいですわね、困りましたわ、癒しの土も、生命の実の中の液体をこの池のほとりの土に混ぜて完成させるのです……が、この生命の実はまだ熟しが足りないようです。どうしましょう……。」
ナオコは冷や汗をかき始めた。
「色塗っちゃえば、同じじゃねーの?」
という呑気なユウジの言葉にナオコの目が光る。
「空気が読めない発言。すんません……くすん、ナオコちゃんの意地悪。オイラは少しでも場を明るくしようと……」
小枝で地面に絵を描き、いじけているユウジはさて置き。
どうやって、この実を手にしよう、何しろ1世紀に一つしかならない実、そんなに簡単に手に入る訳がないだろう。
「何してんだ?ちゃっちゃ取ろうぜ!」
復活したユウジが何気なしに生命の実の木に触れた。
パシンっと小さな音がしてユウジが飛ばされた。
「熱っ」
ユウジの手から小さな煙、こげてしまったようである。
「やっぱり、そうよね……」
「ナオコちゃん、分かってたのね、早く教えてくれれば良いのに」
ホロホロと泣き真似するユウジ。
「主人様とツイ族様しか手にできないと言ったでしょう?ライ様、お願いします」
ナオコの頷きにライは軽く頷き、生命の実の木にそっと触れる。
木は淡く光りライの手を受け入れた。
温かい、不思議な感触だ。
しかし、実は遥か上に位置している。
元の姿に戻れば簡単に取れるが、周りが砂漠と言っても何もないわけではない。 生活している生物もいる。それらに迷惑をかけてしまう。
ライは木々に足をかけ上り始めた。
ライが足をかける度、その足元が光る、手の爪をかける度、液があふれる、木の不思議な感触は上り辛く先にはなかなか進まない。が確実に実の元に近づいた。
それに焦るかのように木々が上に伸び始めた。
やっと実をつけた、そのわが子の様な実を母親が守るかのように上へ上へと木々は伸びる。
諦めずにライは進む。
この体の使い方に慣れてきたと言っても、まだ姿を変えて、そんなに経っていない。
ライも自分の手足をまだ上手く使いきれてはいなかった。
手も足も気が付くと傷だらけ、だが不思議な事にライから流れる血の様な液体が、ライが上ることによってできた木々の傷を癒していた。
ライの手がもうちょっとで実に触れるというところまで上り詰めた。
その時、実の横から出てきた、緑色の葉の様なものが行く手を阻むようにライの腕にまとわりついてきた。ライは必死にそれを払う。しつこいくらいにまとわりつかれ前にちっとも進まない。ライの額の汗が指の隙間に落ちる。指の力に限界を感じる。
そんな中、目の前の手の届く範囲ぐらいの傍の枝が揺れた。良く見れば小さなモグラの様な生物がまん丸なつぶらな目でこっちを見つめその枝に立っていた。
思わず自分が大変な状況と言う事も忘れ、その子を見つめる。
その子は木の上に居るにもかかわらず、ヨチヨチ歩きで危ない足取りだ。
そんな場合ではないと、実に再び手を伸ばした時、そのモグラの様な生物が足を滑らせ枝から落ちた。ライはそれを見た瞬間、実の事を忘れ、手を放しその子(モグラ)を掴もうと手を伸ばす。無事キャッチしたものの一緒に真っ逆さまに下に向かって落ちた。どんどんどんどん落ちる。風が頬を指し痛い。下に居る、ユウジとナオコが大慌てでワタワタしている。
「ユウジさんそんな小さな葉ではライさんは受け止められませんよ!」
「えっ?!そ、そうか!?」
ナオコとユウジの慌てたような声が近くなる。
ライはせめてこの子(モグラ)だけでも助けようと必死に自分の腕の中に包み身を丸くした。
もう少しで地面。凄く時間は長い気がしたが、やはり怖い。ライは目をギュッとつぶった。
それなのにいつまでも痛みの衝撃は来なかった。
ライの下には先ほどライにまとわりついていた葉の巨大化したものがクッションになるようにライ達を包んでくれていた。
葉は再びライ達を乗せたまま実のそばまで伸びた。ライの目の前に実が見える、ポロっとライの手の中に実が落ちた。実がライの手に触れた時、黄緑色の実が一瞬、金色に光り、元の黄緑色に戻った。
ライ達を葉が下に降ろしてくれた。
「おいおい、大丈夫か?でも良かったな。」
ユウジのノンキな声にライもホッとするがまだ心臓は大きく鳴り響いていた。
ライを降ろしたと同時に木は枯れ始め砂漠に埋もれるように倒れたが、その後に小さな青々とした芽が生え、先ほどのモグラの様なものが自分の口を使い、水をかけていた。湖の水を吸い込み上手い事、芽にかけていた。
ライは驚きすぎて呆然とし眺めていた。
「生命の木は実が落ちると役目を終え、枯れてしまうのです。だけどすぐに新しい芽をつける。その側には彼がずっと居るのです。」
彼と言うのはモグラのような生き物の事の様だ。
まあ、色々あったもののなんとか未完成だが生命の実は手に入った。
後は癒しの土だ。
ナオコが説明したように癒しの土は、この生命の木のほとりにある池の土を生命の実の中の液体と混ぜる事で完成する。
先ほどのモグラのような生き物が、池の横の土の中に潜ったと思ったら袋を抱えて出てきた。
そしてそれをライ達に差し出す。袋の中は淡く光っている。
「っを、気が利くじゃねーか。あんがとよ」
ユウジが受取ろうとした時、バチッと火花が立ち5m先まで飛ばされた。
「おいらはやっぱりこういう役回りなのね」
ほろほろユウジがいじけている中、ライは袋を受け取ろうとした、が重すぎて持ち上がらない。
「ありゃ、この袋、口の所が出ているだけで袋部分は全部土の中に埋まってしまってるんだな、すんげー大きいんだな」
ユウジの呑気な声にナオコが困ったように笑う。
「こちらの小さな袋に移しましょうか。こんなに大きいと持ち運びが大変です。」
ナオコの言葉に土の入った袋の紐を解こうとライが手をかける。
だが紐と手が解けるように交わり紐が開けられない。
『生命の実を手にしたものとは別の者ではないと袋を開ける事が出来ないのです。これは癒しの土の元になるものが入っているのですが……』
ライ達の頭の中に声が響いた。モグラの様なものの声だろうか?
「どうしましょう?私達にはツイ族様や主人様の様な力はないし……。」
ライの横でナオコも唸る。ユウジはほっとかれている事にまだいじけている。
『この「土の元」の力の元は母性。皆が持っている力です』と言いながらモグラの様なものはナオコを見る。
復活したユウジがナオコの肩を持つ。
「ナオコちゃん」
ユウジが呟く。
「私に母性なんてあるかしら、私は子供を亡くしたことがあるけれど抱いたことはない」
ナオコの顔が少し曇る。
ユウジ、ナオコは依然、子供を授かったが、生まれてくる前に亡くしてしまっていた。
ユウジやナオコの種はカブトムシに似かよっているが、この国でトトンガと呼ばれている種で、実は人間と似ていて一回の出産で一体しか生まれず、しかも生まれた時から成虫の形をしている。
生まれたばかりの体は白い。
【僕はずっと傍に居るよ。お母さん】
小さな子供の声がナオコの耳元で響いた。
ナオコと目が合ったライが小さく頷く。
覚悟を決めたナオコが恐る恐る癒しの土の元が入った袋に触れる。
初め拒絶するかのように袋が揺れ大きく音が鳴る。
しかしナオコは手を離さなかった。
ナオコの手は燃えるように熱を持つ。このままでは大やけどだ。
だがナオコは放さない。ナオコの横に淡い青い光がぼんやり浮かび、小さな白い糸の様な手の様なものがその光から現れ、ナオコの手の上に重なる。すると痛みが消え、するっと紐が外れた。
外れたとともに淡い青い光と白い糸のような手のようなものが姿を消した。
ナオコの眼にはツーっと涙が流れていた。
「ナオコちゃん、お疲れ様」
ユウジがナオコの後ろからギュウっと抱きつく。
ナオコは涙を拭きユウジに微笑んだ。
口が開いた袋から、小さな袋に移す。
そしてその小さな袋の口を軽く縛る。
ライは未完成の生命の実と癒しの土の元をリュックに詰め、またユウジの自家製ジェット機に三人で乗り込み球地星のツイ族専用着地場所まで移動し、そこで元の巨大な姿に戻った。
そしてライ達はこの未完成な生命の実と癒しの土を持ち地球星に向かう、右の下の頬袋にユウジ、ナオコを乗せ。
未完成。まるで自分みたいだ。
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