第16話スイレン
真っ暗な部屋の中でじっとしていると自分も無機物になったように感じる。
外の音が聞こえるように窓を開けてサイレンを待つ。
事件が起これば何かしら音が聞こえるはず…
窓から入ってくる生温い風は汗と混ざっていく。
血に触っている感覚に似ている。
こんな生温さなら悪くない。
あの灯台はどうなったのか。
目を閉じて深呼吸をする。
意識が沈んでいく感覚と共に情景が頭に流れ込んできた。
灯台は小雨が降る岬から海を照らしている。
私の道が決まったのか。
あの門番は消えていて扉は少しだけ空いている。
階段を上ると海が見える。
灯台の光は雨に反射してまるで空中に道ができたように見えた。
光は海に飲み込まれて続きがあるのかここからではわからない。
確定している未来の先に死を暗示しているようだった。
私は誰かに殺されるのか。
殺されるのは目的を達成した後にしてほしい。
それまでは死ねない。
灯台を降りると生首たちは完全に消えていた。
アレは私の迷いが見せてものなんだ。
意識が引き上げらる感覚がして目を開けると、朝日が差し込んでいた。
今日は長い1日になりそうだ。
リビングに降りると兄がソファで寝ていた。
テーブルにはノートが置かれている。
勉強中に寝落ちしたのか…
兄の寝顔は幼い頃、まだ隣で寝ていた時の顔と変わらなかった。
どうして今更兄のことを気にかけてしまうのか。
自分でもわからない。
ふとノートを見ると、模倣犯の犯行現場の住所やメッセージの絵、細かいメモが書かれていた。
あなたが調べても分かりっこ無い。
わかったとしても何もできない。
早くおきてしまってやることがない。
昨日予測した犯行現場に行くにはリスクが大きい。
教会にいってみるか。
学校からも近い距離にある。
一目で教会とわかるよう外観ではなかった。
真っ白な建物の右上に十字架が煙突のように伸びている。
中に入ろうとしたが流石に空いていなかった。
教会に来るのはオーストラリアを出て以来初めてだった。
私はカトリックだったからこの教会とは違う宗派。
両親が死んでから信仰心はない。
神のもとに皆平等ならなぜ不条理な死が人を襲うのか。
死を裁きというなら両親はそんな大罪を犯したのだろうか。
聖書の教えに忠実なら幸せが約束されているなんて私は信じない。
「あれ?エマ?」
振り返るとゆうきが手を振っている。
「私も気になって着ちゃった。カトリックだからこの教会には来たことなかったんだよ。」
ゆうきの首にはいつも十字架が下げられていたから察してはいたが、この子もカトリックだったとは。
「そうなんだ。私もカトリックだったよ。」
「だったか…エマは神様なんて信じてなさそうだもんね。」
悪気はないのだろうが言い方が癪に触る。
「両親が死んだ時に信仰心は捨てた。あなたは家族を殺した事、赦されたいの?」
ゆうきは泣いていた。
私が両親を亡くした時のように意識の外側で涙を流しているようだった。
「赦されようなんて思ってないよ。ほら、学校行かないと遅刻しちゃう。」
涙を拭ったゆうきの横顔は純粋な少女の顔だった。
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