第15話アザミ
誰もいない放課後の教室は居心地がいい。
考え事をするにはうってつけだ。
私は杉並の中でもそれなりに広い範囲で犯行を行なっていた。
メッセージのあった犯行現場もばらけてはいたが地図にマーキングしてみると…
キレイに二等辺三角形になっている。
この同じ長さの辺を軸に正五角形を描く。
五角形頂点をつなぐと…
星のマーク。
予測でしかないがあと2件分の犯行場所を推測できる。
「ここか。」
昨日まで頭にへばりついていたモヤが少し晴れた。
明確に読み取れるようにメッセージを送っているとするなら間違いないだろう。
安直に解釈するとしたら十字架は教会。
カンガルーは有袋類でお腹の中である程度子供を育てることから親子。
それで一応の説明はつく。
でも、もし教会で何か起こるとしたらどこだ?
星の中にある教会は6つ。
広い範囲で起きているのもあるが多すぎる。
いや、最初に思いついた南十字星だとすると線路を境にしてきたと南に分けることができる。
南側の教会は一つ。
「ここだ。」
もし今日あと2件が起きたら…
明日この教会に私を呼んでることになる。
ひとまずは待つしかない。
「あー。そういう事か!」
ゆうきに覗かれていた。
放課後誰もいなくなったと思っていた。
向かいに座ったゆうきはまるで子供のようにはしゃいでいる。
地図のマーキングだけで気づいたってことはやっぱり頭は悪くないんだろう。
「そう。明日この教会に私を呼んでる。」
「楽しみね。私もついていっていい?」
笑った彼女の表情はとても冷たかった。
「まさかと思うけど、模倣犯殺る気じゃないよね?」
いつもの作り物の笑顔を私に向ける。
「邪魔になるんだったら私は躊躇しない。」
嘘の匂いはしない。
本気だ。
2つ人格があるんじゃないかと思うレベルでスイッチが入ると手がつけられなそうな狂気。
同じ人種でも私とはちがう。
冷たい表情とは真逆の蜃気楼が起こりそうなくらい熱を帯びている。
「ゆうきのスキルがどれだけあるかわからないけど私の模倣犯で同じ殺しができるってことは相当だよ?」
熱を冷ますように冷たい言葉でやり過ごす。
「私はキレイな殺しなんてしない。そんなところに上品さなんていらない。」
私に当てられる熱はさらに温度が上がる。
ハリボテの表情はドロドロに溶けて内側の目が私をにらんでいる。
「私、汚い殺しは嫌いなの。」
激情という表情を初めて見たかも知らない。
「なんなの?殺しに変わりはない!キレイにやったところで結果は変わらない!
それとも、汚い死体にトラウマでもあるの?」
その言葉の直後ゆうきが放っていた熱は一気に飲み込まれた。
一瞬で息ができなくなる。
いつ間にかオトガイの裏に何かが突き立てられている。
状況を理解するのに2秒かかった。
ペン先が押し付けられて唾を飲み込むとさらに深くえぐられる。
今まで生きてきて一番長い2秒。
一瞬でエマに殺された。
気づいたら死んでいるとはこういう事なんだ。
ゆうきは初めてエマの殺意を体感した。
周りの空気は一気に冷えていくのに反比例してゆうきの体温は一気に上がる。
「次にその話をしたら殺す。」
ペンを押し付けられた喉元の痛みは心地よかった。
初めて自分に向けられた殺意は新しい快楽をゆうきに与える。
「ねぇ、エマ。全部終わったら私のこと殺して。」
ゆうきは興奮を抑えきれなかった。
「ゆうきが望むならあなたの望むタイミングでやってあげる。でも次私のやり方に口挟んだら2秒後にあなたは死んでる。」
ああ、向けられた殺意が心地いい。
無邪気な笑顔でゆうきは笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます