第13話アジュガ

昨日妹は外出しなかった。

ニュースでは連続殺人と同一人物って言ってるけどそれはありえない。

模倣犯が現れたって事だ。

昨日話しかけてきた警察は妹の犯行だと思っているんだろうか。

そもそも、妹が犯人だという証拠が出てきて俺に質問してきたのか。

物証はないけど候補に挙がっている1人だからなのか。

妹に捕まって欲しくないという気持ちと、捕まえて止めて欲しい気持ちが複雑に絡まりあって解けない。

家族でありながら彼女を理解できない自分に苛立ちがつのる。


「父さん、母さん。俺はどしたら…」


最近思い出すのはアデレードで平和に暮らしていた時のことばかりだ。

母さんの事が大好きで、子供への愛情が空回りしてばっかりいた父。

そんな父が空回りするのを優しくサポートして俺たちに愛情を注いでくれた母。


「あの頃に戻れたら…」


「ハンス、どうした?大丈夫か?」


「ああ、ちょっと悩み事。大丈夫だよ。今日もムキムキだな、レックス。」


「最近絞ってるんだ。いい感じだろ?次の試合が楽しみだぜ。ハンスが入ってくれたらもっと勝てるのにな。」


背中をそれなりの勢いで叩かれる。


「フットボールはもうやらないよ。もう鍛えてないし、今更やり始めても戦力にはなれないさ。」


「まぁ、考えておいてくれよ。じゃあ俺行くから元気出せよ!」


「サンキュー。」


家以外に居場所がある事が唯一の救いだった。

友達と一緒にいる時だけ現実から目を背けられる。

エマも同じなんだろうか。

理解者が見つかったと言っていたからその人がエマを止めてはくれないだろうか。

そんな都合良くは行かないか…

帰ったらエマに今回の事件のことを聞こう…


「ただいま。」


今日も妹は家にいる様子だった。

リビングに行くとテーブルには夕飯が用意されている。

今日は作ってくれたのか。

ラップで包まれた夕飯の横にはメモが置いてある。


今回は私じゃないから。


妹の犯行ではないと思ってはいたが半信半疑なところもあった。


私じゃないという一言が嬉しかった。

やっぱり今回は模倣犯なんだ。


先ほどまで張り詰めていた緊張の糸が一気に緩んで力が抜ける。

ソファーに倒れ込みしばらく動けなかった。

体の力は抜けているのに意識ははっきりしていて、頭の中は誰が何のために妹の犯行を模倣したのか。

謎が延々とループする。

心当たりも何もない。

ただ自分に犯人は誰なんだと問いかけることしかできない。


今回の犯行は遺体のそばにダイイングメッセージが書かれていたそうですが、どのようなメッセージなのでしょうか。


メッセージといっても星のマークが描かれていたんでしょ?

これだけじゃ何も読み取れませんよ。


テレビからは一連の連続殺人として伝えられている。

星のマーク…

そもそも頸部を切られたんだ普通ならダイイングメッセージを残す余裕なんてないはず…


ずっと働かせていた脳はスリープ状態にフェードアウトした。


「人が作ったご飯食べずに寝てんなよ。」

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