第11話ユーカリ
サイレンの音と雨の匂いで目が覚めた。
最近、今まで気にならなかった小さな物音すら気になる。
人を殺すたびに五感が研ぎ澄まされていく。
前まで美味しく感じていた兄の朝食は日に日に不味く感じるようになった。
パンはスポンジ、レタスは昆虫の羽のようで卵なんて最悪だ。動物の体液をすすっているようで鼻には硫黄臭さがへばりつく。
「どうした?美味しくないか?」
「いつも通り。普通。」
「そっか。よかった。」
「ご馳走さま。行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
起きた時に降っていた雨は止んでいて昨日までは空の上にあった埃の匂いが地面に染み付いている。
雨の後の足元にはいつも発見がある。
いつもは平らに見えている地面も実は凸凹で雨の後には水たまりができる。
普段は見せない一面を持った人間のようで、水たまりは見えない私が見えてしまうように思う。
だから嫌いなんだよ。
「エマ!おはよう!」
「ゆうき。おはよ。」
高校に入学してから誰かと登校するのは初めてで自分でも表現できない緊張体を縛り付けた。
「緊張してるの?」
ゆうきは人の感情に関しては鋭敏だ。
表情や動作から読み取る能力が高い。
「誰かと登校するの久しぶりで、緊張しちゃって。」
「あなたでも可愛いところあるんだね。」
「あなたに私がどう見えてるかわからないけど初対面の時に言われた通り普通の女子高生の一面もあるの。」
「怒った?可愛い。」
そう言って笑う彼女も普通の女子高生と変わらなかった。
雨の後の空気がいつもより心地よくなった気がした。
人とまともに話したのはいつぶりだろうか。
殺人も自分の闇もほんのすこしだけ忘れられた。
「おい、嬢ちゃん!」
あの男の声が私を闇に引きずり下ろす。
3日連続ともなるとそろそろウザい。
「5件目が起きたぞ。」
ゆうきの視線が突き刺さる。
なんで?私じゃない。
「ちがう。私じゃない。」
私とあの男の関係性をゆうきはすぐに理解したようで友人のハリボテを完璧に作り直した。
「え?報道されてますか?」
「ついさっき発覚した。またこの学校の近くだ。詳しいことはまだ鑑識の結果が出てなくてわからねぇがまた首への切り傷が致命傷だ。」
「そうですか。詳しいことわかったら教えてくれますか?」
「ああ、あてにしてるぜ。おい原田!いくぞ!」
5件目?なんで?
私はやってない。
「ねぇ、どういうこと?エマがやってないことは顔の感じとかでわかったけど。」
「私もわからない。でも、模倣犯が出てきたのかもしれない。」
「なにそれキモ。ありえないんだけど。」
「とにかく今はあの刑事の情報待ち。模倣犯だとしても完璧に私のソレは真似できない。」
「警察より早くそいつ捕まえて殺さないとね。お兄ちゃんより優先順位上がっちゃったよ。」
こういう単純思考なところがうまく働くといいけど。
5件目。前の4件よりもスパンが短い。
違いはあるのか?
「どうだ?」
「ああ、尾崎さん。お疲れ様です。見たところほぼ同一犯で間違えありませんね。一家全員酷いもんです。足跡も前までと同じように侵入可能な経路すべにべったり。ただ…」
「ただ、なんだ?」
「殺し方は同じで頸部をすっぱりなんですが、害者の近くに血文字というか絵が。」
「血文字だ?なにが書いてある?」
「指ではなく筆か何かの類で描いたようで、星のマークが。」
「星だと?なめてんのか?」
なぜここにきてこんなことを…
この違和感はなんだ…
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