第8話アキノキリンソウ

いつもより早く目が覚めた。

6時半。

昨日のあの刑事が気になって仕方がない。

「気持ち悪い。」


学校にこんなに早く来たのは初めてだった。

誰もいない教室は意外と居心地がいい。

ふと窓の外を見るとスーツの男が校門の前に立っている。

原田?

疑ってるなら本人が登校した後にバレないようにやれよ。

どこまでもモブキャラレベル…


「おはよう。」

驚いて振り返るとゆうきが立っている。

「あんた気配消すのうまいね。」

しっかりと視認しているはずなのにゆうき姿は霞んで見える。

彼女の周りだけ霧に包まれているようでその気配は私といるときにしかまだ見たことがない。


「刑事がエマのこと聞いて来たけど昨日あの後何したの?」


「情報聞き出すために刑事とわざと鉢合わせて話した。」


「結構大胆なんだね。捕まらないように気をつけないとまだ目的達成してないでしょ?」


霞んで彼女の表情がよく見えない。

喜怒哀楽がコンマ数秒ごとに変わっているように見える。


「私は捕まらない。なんか聞かれた?」


やっと表情の霧が晴れる。

ゆうきは笑っていた。


「ええ。学校での様子を聞かれたけど転校生だからわからないって答えといた。」


「そう。わかった。」


「ねぇ、エマ。私の次のターゲット決まったよ。」


またあの冷たい表情。


「へぇ、家族の次は隣人でも殺すの?」


「私は自分が愛した人しか殺さない。次はエマのお兄ちゃん。」


意味がわからない。

彼女の思考が全く読めない。


「なんでお兄ちゃんなの?」


「いつか必ずエマの邪魔になる。目的があって殺してるんでしょ?その邪魔になる芽は摘まないと。」


兄がどうなろうと私には関係ない。

むしろ殺してくれた方がストレスがなくなる。

でもあいつが邪魔してくるとは思えないけど…


「じゃあ、私がやる時は一緒に来て。それを邪魔しようとしたら好きにすれば?」


初めてゆうきの作り物ではない笑顔を見た。

ハリボテの笑顔とは打って変わってクシャッと笑う女の子だった。


「わかった。」


それより今は刑事たちだ。

学校で目立つのは面倒くさい。

いっそこっちから仕掛けるか…


「何する気?」


「昨日はあのモブともう1人いてそいつから連絡先渡されたの。情報くれって。」


まさゆうきがまた笑った。


「新手のナンパね。」


茶化すな。

電話をかけるとすぐに尾崎は出た。


「よお。情報か?」


「あの、原田って人が校門の前で私のこと聞いて回ってるんですけどなんなんですか?」


「あのバカ。なんで。悪かったってすぐやめさせるわ。」

プツッ


ムカつく。

窓の外を見ると原田は電話で何か話した後すぐにいなくなった。

厄介払いは済んだ。

しばらくは動かない方が良さそうだ。


「あいついなくなったね。ねぇ、次はいつ?」


ゆうきは頭がいいのか悪いのかわからない。


「しばらくは無理。マークされてる。」


「そっか、つまんないの。」






「原田!てめぇやり方ってもんがあんだろうがよ!校門の前で聞き回るかよ普通。」


「え?あ、たしかに。でも誰に聞いても同じようなことしか言ってないっすよ。」


「少しは反省しろや。とにかく戻ってこい。篠崎エマの情報出てきたぞ。」


「はいっす。戻ります。」

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