第7話アンズ

捜査に進展なし。

一課の捜査員強面とモブ顔の2人組に注意。

連絡が来た。

例の刑事か。

私の最初の犯行の時からこの2人は動いていると連絡があった。

私があいつから得られる情報は端的なものだけで確信を持って行動できにくくなって来ている。

接触するか…

しつこく嗅ぎまわっているなら現場の近くにいるはずだ。

夜に若い女が歩いていれば声をかけてくるだろう。

「エマ。また行くのか?」

「コンビニ行くだけ。」

兄は不安そうな顔をして私を送り出した。

近所で殺人事件が起きたからか住宅街はいつもより静かに感じた。

これくらいの静けさが丁度いい。

「尾崎さん、流石にドラマじゃないんだから犯人が現場に戻ってくるわけないっすよ。」

「うるせぇ、あれだけニュースになってりゃ気になって出てくる可能性もゼロじゃねぇだろ。」

心地よかった静寂を叩き割るように騒ぐ男の2人組がこちらに歩いてくる。

暗くて顔がよく見えない。

あの2人か?

街灯の下に2人が移動する。

強面とモブ顔。

こいつらか、

一瞬目が合ってしまった。

「お嬢ちゃん。こんな時間に1人?」

しくじった。今日は確認だけの予定だったのに。

でも好都合かもしれない。

無視して立ち去るそぶりを見せるとモブ顔が話しかけて来た。

「まって、俺たち警察官なんだ。こんな時間に1人で出歩くのは危ないよ。」

よし。釣れた。

「本当に警察ですか?信じられません。」

それを聞くと2人は警察手帳を見せて来た。

「ほら、ホントの警察官だよ。」

原田和宏巡査部長。片方の名前はわかった。あとはこの強面。

「コンビニ行くだけです。家出とかじゃありません。」

「ああ、わかったよ。でも近くで殺人事件あったのは流石に知ってるよな?アレさ全部室内での犯行だが万が一もある。家まで送らせてもらう。」

強面は警察手帳を見せて来なかった。

1人しか名前は分からなかったか。

まぁいい。この後上手く聞き出せばいい話だ。

「とりあえずコンビニ行っていいですか?」

強面はあからさまにイラッとした表情をしていた。

「最近のガキはどんな神経してんだ。コンビニは行かせてやるから昨日の夜なんかいつもとちがうことなかったか?」

「歩きながらでいいですか?」

「クソが。最近のガキは…わかったよ歩きながらでいい。」

そう言って2人組はついて来た。

「昨日の夜はこの時間には寝てたんでわかりません。夕方以降外に出てすらいないので。」

「そうか。」

さて、次は何を聞かれるか。

「昨日殺人が起きたのになんでこんな夜中に出歩いてんだ?怖くないのか?周りの住人は家から出てすらいねぇのに。」

「ニュース見てて全部家族全員殺してるっていってたので1人で夜道を歩いてる人は襲わないと思いました。」

その答えに刑事たちは驚いた様子だった。

「頭いいなお前。お前より賢いんじゃねぇか?」

「そりゃないっすよ尾崎さん、、」

顔もモブなら言動もモブレベルだなこの刑事。

ただ強面の名前を知れたのは大きい。

「お嬢ちゃんはこの事件の犯人どう思う?原田より参考になりそうだ。」

その質問と同時にコンビニについた。

「買い物済ませてから話します。私実は推理大好きなんです!」

あぁ、演技は疲れる。

「ああ。すぐ済ませろよ。原田一応店内一緒に行け。」

「はいっす。」

原田は警戒に値しないな。

それよりあの強面に嗅ぎまわられると面倒くさそうだ。


適当に買い物をして外に出た。

原田が挙動不審すぎて逆に店員に怪しまれた。

「ちょっとタバコ吸わせてくれ。推理好きって言ってたな。お前の推理とやらを聞かせてくれ。」

副流煙は吐き気がする。

せっかくのいい空気と匂いが台無しになる。

「犯人は相当几帳面。4件で10人も殺してるのに手がかりが全く掴めない。ニュースで言ってたけど殺害方法しか一致してないんでしょ?自分のやり方にプライドとかそういうのを感じる。」

「俺も同感だ。他には?」

「あとは、愉快犯たとか快楽殺人者ではないと思う。快楽殺人だったらもっといたぶると思う。特に子供はいたぶるのには格好の的なのに全部首しか刺してないしてない。」

タバコの煙が私の前を遮る。

最悪。

「ふっ。原田より使えるな。うちに欲しいくらいだ。」

笑った顔も人相が悪い。

任侠映画に出て来そうだなこいつ。

「男と女どっちだと思う?ちなみに俺は女だと思ってる。」

想定外の発言だった。

「なんで?一家惨殺ってことはそれなりの年の男も殺してるんでしょ?女には難しくない?」

「こいつは公開されてない情報だが家中に足跡がびっしりついてた。その足跡を見る限り、男の足じゃない。」

そういうことか。

警察を舐めていた。

性別の判断がつかないように大きめの靴を履いていたけど…

ここはとぼけるか。

「なんで?女でも足の大きい人はいるでしょ?」

「足の幅だよ。重心がかかった幅が狭すぎる」

「そんなこと一般人に教えていいの?」

刑事は笑うと内ポケットから紙を出して私に差し出して来た。

「俺の連絡先だ。なんか気づいたことがあったら俺に教えてくれ。お前は使える。」

紙には電話番号が書かれている。

面倒なことになった。

連絡しなければ済むことだが連絡しないとそれはそれで面倒になる。

「わかりました。私の家ここなので。」

「おう。あんま夜出歩くんじゃねぇぞ。」

「はい。ありがとうございました。」

一応お辞儀をして扉を閉めた。

家がバレることはそれほど問題ではない。

あの尾崎という刑事、どう使えばやりやすくなるだろうか。

「ただいま。」

しばらくは様子見だ。





「尾崎さん、連絡先教えちゃってよかったんすか?」

「ああ、問題ない。あの女の子調べといてくれ。」

原田は完全に呆けている。

「え?あの女子っすか?なんで?」

「うるせぇ!俺の勘だよ!」

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