第6話ツルボ

「ただいま。」

エマの部屋の明かりがついている。

今晩は家にいるようだ。

「エマ。ご飯食べるか?」

部屋の前でこえをかけてみるがいつも通り返事はない。

当たり前といえば当たり前だろう。

人を殺していることを知っておきながら見て見ぬ振りをするような兄だ。

普通じゃない。

テレビをつけると殺人事件のニュースだった。

都内連続刺殺事件解決の糸口未だ見つからず。

エマだ。

あの夜見過ごしてしまってから、妹の殺人を見過ごすことしかできなくなっている。

事件のニュースを見るたびに妹が殺してしまった人たちへの罪悪感で息ができなくなることがある。

冷たい手で心臓を握られているようで生きた心地がしない。

締め付けられるたびに力が入らなくなりソファーに倒れこむ。

ソファーがどこまでも沈んでいくような感覚。

心臓の音がより大きく聞こえる。

この感覚に陥るたびに考える。

俺は生きているのか生かされているのか。

妹の殺人を知ってしまった夜、真っ先に殺されると思った。

しかし妹は俺を殺そうとしない。

なぜ?俺は妹が人を殺す理由も俺が殺されない理由もわからない。

こんな思考をここ2ヶ月間ずっと繰り返している。

被害者も共通点は未だ見当たらないらしい。

どういう基準で被害者を決めているのか。

俺は被害者と面識はない。

止める方法はないのか…

「ねぇ、お腹空いたんだけど。」

飛び起きるとエマが話しかけてきていた。

「ごめん、すぐに夕飯作る。」

妹が話しかけてきたのは2ヶ月ぶりだった。

あの日以来まともな会話すらしていなかった。

これを機に何か手がかりを得られないだろうか。

「ねぇ、妹が人殺してるのになんで何も言わないの?」

突然の質問ですぐには答えられなかった。

「俺はエマのこと理解したいと思ってる。それまでは警察には言わない。」

これ以外の言葉が見つからなかった。

「気持ち悪い。あんたに理解なんてできないしされたくもない!」

机を叩く音が響く。

「ごめん。夕飯すぐ作るから。」



久しぶりの2人での食卓だった。

終始無言で以前のようにはいかない。

夕飯は無機物を頬張っているようでなんの味もしなかった。

「ご馳走さま。さっき怒鳴ったけど私のせいだってことは自覚してる。」

思いもよらない言葉だった。

「でもね、私に殺しはやめられないから。自分じゃ止められないし止める気もない。理解なんていらない。理解者ならもういるから。」

これまでなんとか掴めそうだった妹の手が遠ざかって行った。

理解者ができたなんて、、

理解者は誰なのか。

完全に見えなくなる前にどうにかしなければ。

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