第17話 謎の根菜スープ

 ササキとファーブルは探索を続けていた。

 どうも人の気配がするが、今のところは危険な様子はなさそうだった。


 大人が横に手を広げて3人分くらいの通路が続いている。

 通路は少しだけ曲がっておりどこかに向かっているようだった。


「……そろそろ疲れたのぢゃ」

「そうですね、ぼちぼち小腹もすきましたね」


 もともと用意していた食料に加え、以前に入手した極地戦争前のチューブ食などを抱えていたが、経費削減の昨今、現地調達できるものから優先的に食べていた。

 しかしチューブ食は腹持ちがあまりよくないようで、ササキもだいぶ腹がすいてきているのを感じていた。


「しかしこのあたりは倉庫とかそういうのも全然ないですね」

「……少し変わった構造ぢゃのう」

「こういうシェルターはあまりないものなんですか?」

「そうぢゃな、極地戦争前は、とにかく生産工場やら農業やら重要人物やらいろんなものが地下化されたのぢゃが……自治体が自前で作ったシェルターもあって多種多様でのぅ、こういう同定できない施設も結構あるのぢゃ」

「ですかぁ」

「おや? また扉があるようぢゃぞ」

「本当ですね」


 ササキは念のために拳銃を取り出した。9mm装弾筒付翼安定徹甲弾APFSDSの装填状態を確認する。


 大人1人がやっとくぐるくらいの大きさだったが、その扉は分厚く重そうだった。

 鉛で出来ているようで、これも隔壁の1つなのだろう。


「極地戦争の前哨戦は核兵器で行われると思われていたからのぅ……」

「開けることはできそうですね、特にロックもかかっていないようです」

 

 ササキは体重をかけてその扉を開いた。

 ふっと光が差し込んでくる。


「おぉ!?」

 ファーブルが声をあげる。

「あれ?」

 

 その光は限りなく太陽光に近かった。

 この光の感じは覚えている。古代コロニーの探索の際に発見した、太陽光を模した投光機から降り注ぐ光だ。本物よりも少し優しい感じがする。


 扉を開けた先には青空が広がっていた。

 いや、正確にはかなり広い空間ではあるが、壁や天井が青く塗られているだけだ。

 しかしそれも透明感のある色合いで、奥行きを感じさせる仕上がりだ。


 この空間はササキの感覚でいうとちょっとした運動場の4〜5倍だろうか。箱状だが青色の天井は高い。100mくらいはありそうだ。


 扉の先はちょっとした足場のようになっていて、そこからこの空間を見下ろすことができた。


「かなり大きいな、それに人がおるぞい」

 ファーブルが言う。


 この外を模した空間には下方にどうやら何らかの木材や縄を組み合わせた、簡素な建物が多数建っていた。

「あれは屋台ではないのか?」


 彼女が指さした先では、確かに何か食べ物のようなものを売っている屋台のようなものがある。というよりこの建物群はどうやら何かの市場のようだ。


「人間も4〜50人はいそうですね」

 ササキも驚いてはいたが、機動警察の終末統合端末を取り出す。

 軽くその人間たちを走査するが、IDカードが引っかからない。端末には何の情報も出てこなかった。


「通常IDカードを持たない人間はたいていの場合"管理"から逃れた脱走者なんですが……」

「なんか奇妙な服装ぢゃな」

 

 その"市場"に集まっているのはやや女性が多いだろうか。

 麻か何かの布でできた簡素な衣服に、何がしかの天然素材のカゴをかかえて食品か何かを買っているようだった。子供の姿もある。


 ごく平和そうな光景だ。

「走査した限りではアンドロイドなどではなく、ごく普通の人間のようです、ファーブル博士。危険はないかな……」

「行ってみるか」


 ササキとファーブルは足場からくだる木製の階段を踏みしめた。


 近づくと人間の活気が感じられ、屋台などからただよう良い匂いが鼻腔をくすぐった。


 市場の人々はこちらに気づくと、少しぎょっとした様子で下がっていった。

 明らかに風体の違う人間が入ってきたからだろうか。

 ただ敵意のようなものは感じられない。


「うーんIDがない違法状態で、明らかに機動警察の制服を見ても動揺がほとんどない……」

 通常ならIDを持たない状態で出歩くこと自体が違法で収容所送りである。

「これはもしかすると……ぢゃな」

「シェルターに避難していた未発見のグループの子孫……]

「それはそれとして腹がへったのぢゃ」


 ファーブルの腹からぐるるという音が鳴る。

「この状態だと食べ物売ってくれますかね」

「うーむ」

 ファーブルの目は何かスープらしきものを売っている近くの屋台に釘付けだ。

 ファーブルの表情と腹の鳴り具合から、その屋台の主人は何かを察したらしい。


「xaojuhgeafa?」

 全く聞き取れない言葉だったが、スープ皿を差し出し、身振りでどうやら食べろと言っているようだった。他の人々はまだ遠巻きだ。


 ファーブルは皿を受け取り、直接すすった。

「大丈夫ですか?」

「……うまい!」

「えぇ」

「ちょっと飲んでみるのぢゃ」

 彼女が押し付けてきた皿にササキもおそるおそる口をつける。


 暖かい。

 スープをすすると、何やらポタージュのような暖かでまろやかな風味がする。

 しっかりと味付けされているが、何よりも天然素材らしき根菜類がふんだんに使われているようだった。


「……うまいです」

「ふーむ、ちょっと興味が湧いてきたのぅ」

 ファーブルは口の端をぬぐいながら市場の人間たちをじろじろと眺めるのだった。



「謎の根菜スープ」

――材料 (1人分)

根菜類 × 2(未鑑定)


――作り方

不明(未調査)


――コツ・ポイント

言葉が通じないので、何とか伝えてください。

素材は天然素材で非常に美味です。




 

 

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