第16話 伝統的チューブ飯
鉛の扉を開けた先は、ちょっとした広間になっていたが、いくつもの通路が広がっているようだった。ちょうど監獄の監視所から延びる監獄房のような形状になっている。
「これって迷路ですかね?」
ササキはすぐ後ろをついてきているファーブルに問いかけた。
彼女はあたりをきょろきょろと見回す。
そのままトテトテと通路の1つを見に行った。
そしてそのままトテトテと戻ってくる。
「……はぁはぁ」彼女は膝に手をつき、肩で息をしている。
「ファーブル博士、体力なさすぎませんか?」
「……このベースの素体はあんまり運動に向いてないのぢゃ」
(ならなぜこの素体が探検に……?)
ファーブルは女性型素体に高名な博士の記憶や知識が植え付けられたスタイルのアンドロイドだが、もう少し運動能力を強化したりできなかったのだろうか。
「……というようなことを考えている顔ぢゃな?」とファーブル。
「お見事です」
「否定せんか」
「正直者なので……」
ファーブルはふんと鼻をならした。
「理由は簡単ぢゃ。そも過去の学者の記憶や知識がベースになっているが、思考自体はこの素体が行う必要がある」
「ふむふむ」
「ということは考えるのにものすごくエネルギーを使うのぢゃ。それゆえ小さい体のほうが向いておる」
「なるほど……」
「あと単純に安い」
「ですか」
「ところで……あの通路ぢゃが、あれは通路ぢゃなさそうぢゃ。何らかの爆発がここで起きた時に、爆轟を逃すための、いわば空気穴ぢゃな。かなり先の砲では通気口につながっているようぢゃった」
「やはり普通よりも重要な施設なんですかねぇ……」
「という考察で腹が減ったのぢゃが、何かないかのう?」
ぐるるる、と腹が鳴る音が聞こえてきそうなほどファーブルは身を折って訴えかけてきた。いや実際にアンドロイドとはいえ消化器官が動く際に何らかの音が鳴るのかもしれない。
「うーん……とりあえず先に進んでみましょうか」
「仕方ないのぅ……」
ファーブルが構造を調査し、もう1つ鉛の扉を見つけた。
こちらは垂直方向に設置されており、開けると階段が出てきた。
ひんやりとした空気がこちらに流れて来る。
2~3人が同時に降りることができそうだった。
「ふむ……見たところガスとか、酸欠状態になってるとかもなさそうぢゃな」
ファーブルの目が青色に光った。どうやら眼球はセンサーにもなっているようだった。
どこか湿った感じのするコンクリートか何かの階段を40段ほど降りると、かなり広い空間に出た。階段の下にはササキが両手でぎりぎり抱えられそうな大きさの木箱が100個か200個ほど積み上げられていたが、その一部が壊れ、破片や中身が散乱していた。
「おっと、天然の木のようぢゃな、勿体ないのぅ……というかこの間の古代コロニーよりも前の年代の地下施設かもしれんのぅ」
ファーブルがごそごそとそのあたりの木箱を漁る。
「おぉ……こんなものを見つけたぞ」
ファーブルが両手に1つずつ握りしめているのは何かチューブ状の銀色の容器だった。
だいたい大人の手の倍くらいの長さで、何かの薬品だろうか。
「これは何です?」
「これは……古代の食べ物ぢゃ」
「これが?」
ササキは謎のキューブや栄養のある謎の液体など数々の食事をこなしてきたが、こうしたチューブ状の容器に入ったものは初めてだった。
包装やチューブに貼り付けられたシールはぼろぼろになっているが、銀色に輝く容器は無事であるように見えた。
「これ大丈夫なんですかね」
「この時代は極地戦争の序章に備えていた時代ぢゃから、半端ない年月保存できるのぢゃ。博物館くらいでしか見たことないがのぅ」
「何の味がするんでしょう?」
ササキはしげしげと容器を眺めた。
シールのほうはかろうじて文字が見えるが、例によって古すぎて判読できない。
「どうやらそっちはイチゴショートケーキ味、こっちはプリン味ぢゃ」
「……いきなりデザートなんですね」
「他にも探せばあると思うが、腹が減ったのぢゃ……」
今度は本当にファーブルの腹がぐるると鳴った。
「食べましょうか」
ササキはキューブのフタを慎重にはがした。
一応、嗅いでみるが嫌な臭いはしなかった。むしろ甘い匂いがする。
チューブをくわえて中身をしぼりだしてみた。
確かに食感は少しどろっとしていたが、甘いクリームの風味とイチゴの酸味を感じる。
「これ結構……」
「うまいのぅ」
ファーブルもプリン味のチューブを堪能していた。
「ところで……」
ひとしきり堪能した後、ファーブルが話しかけてきた。
「さっきどうも人の住んでいる痕跡らしきものを発見してのぅ?」
「最近のものですか?」
「……かもと思っているのぢゃ」
ササキはファーブルが指した方にある木箱に向かった。
散乱していると思っていた木箱だったが、どうも最近木箱を蹴った跡のようだった。
靴の跡、散乱したあたりを一通り調べたが、確かにここ1週間~2週間以内くらいに蹴った跡のようだった。靴のサイズはそう大きくない。
慎重に端末も使って調べた結果、その人物はこの広間の奥にある扉の先に向かったようだった。それ以来こちらには来ていない。
「確かに人のようです。行ってみますか?」
「この施設に住んでいるか侵入した人物なら、わしらよりももっとここのことを知っとるぢゃろう。行ってみよう」
ササキとファーブルはその人物の跡を追って歩き始めたのだった。
「古代の1000味チューブ」
――材料 (2人分)
チューブ × 2
――作り方
1.箱から取り出す
2.キャップを開ける
3.絞りだして食べる
――コツ・ポイント
色々な味があります。カレー味は特に人気です。
製造会社の歯磨き粉とおなじ容器に入っています。間違わないようにご注意ください。
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