第二章 前菜

第15話 新たな探索指令と古代栄養ドリンク

 地上軍警察 捜査隊 機動捜査課 中尉のササキは衛星上に墜落した古代のコロニーの探索を終え、しばらく非番でもあり休暇をとるつもりだった。

 休暇申請を終え、自宅の古代遺跡である雑居ビルの一画に帰ってきたところで呼び出された。


「ササキか、グレッグだ」

 機動捜査課大佐グレッグの声が端末から聞こえてくる。反射的に通話をONにしてしまったが、気が付かないフリをすればよかったとササキは後悔した。


「急用ですよね?」

「その通りだ。実はつい最近、不発弾が砂漠で爆発してな……」

「不発弾ですか」

「そう、燃料帰化爆弾だ。まぁ何らかの衝撃なのか、風化なのかの影響で突然爆発したらしい」

「その調査ですか?」

「いや、爆発物については爆発物処理班が捜査している。問題は、だ……」


 グレッグが語ったところによると、どうやらその燃料帰化爆弾の爆発の衝撃で第223-AD9975地区レベル1階層の砂の層がかなり吹き飛ばされたらしい。その爆発後から、新たな気密扉が見つかったとのことだった。


「おぉ……未知のシェルターですかね?」

「扉のサイズは大したことはないが、少なくとも都市級ではないにしてもそれなりの大きさだ。例によって協力者を準備したので行ってきてほしい」

「なぜ休暇申請した私に……」

「レナは通話に出なかったが、貴官は通話にでたからだ」

「……」


 グレッグには今度こそ探索の後に休暇を付与する約束をさせたササキは準備をし、ホバーバイクで向かった。危険はなさそうとのことだったが乙武装だ。こうした武器や制服、装備は個人の管理に任されている。


 第223-AD9975地区はそれほど遠くはなかったが、ホバーバイクの高度を上げて一直線に向かった。しばらくして砂漠地帯に入る。爆発跡はなかなか凄まじく、砂塵に埋まった保存状態の良い燃料帰化爆弾が何らかの衝撃で爆発したため、相当な深さの跡が出来ていた。

 その跡の周囲にいくつか機動警察の天幕が建てられていた。


 ホバーバイクを止めて天幕に向かうと、プロテクターを身に着けた爆発物処理班がちょうど天幕から出てきた。

「機動捜査課か」

 プロテクターの男が言う。

「ササキ中尉です」

「ロッシ大尉だ。……俺たちは引き上げるところだが……一応、このあたりの爆発物は処理はしておいた。でも気をつけろよ」

「何にです?」

「あの燃料帰化爆弾はこの露出した気密扉の先の施設を狙ったものかもしれん。危険を感じたら引き返すがいい」

「ご忠告、ありがとうございます」

 ロッシ大尉は手を軽くあげて部下たちに指示を出しにいった。


「さて……協力者だが……」

「おぉ、また会ったのぅ」

「……ファーブル博士」

 ふわっとしたショートカット風の髪型。どうみても10代前半の背の低い少女の姿。間違いなくコロニー探索で同行したファーブル博士だ。


「ちなみにこれは二号機ぢゃ。一号機のチップを移してあるのぢゃが、体は面…ナンスしたばかりぢゃから、きわめて元気ぢゃ」

「ですか」

「今回は危険はないとのことぢゃったから、とりあえず二人だけのようぢゃのう……」

「まぁ……とりあえず行ってみましょうか」

 アンドロイドのくせに体力が全然ないファーブルは明らかにお荷物だったが、これも命令だ。仕方がない。


 ササキは重い足取りで爆発跡に向かう。

 一応、爆発物処理班が歩いてよい位置にテープ付きのクサビを埋め込んでいるため、分かりやすかった。すり鉢状にえぐられており、泥岩か何かの層が露出していた。その中央に半径7mほどの鉛製の気密扉が埋められていた。


「こちらですね」

「うむ……」

 気密扉に近づいたところで、ファーブルが話しかけてきた。


「ところでササキ中尉、お主ずいぶん疲労がたまっているようぢゃのう」

「まぁ休暇直前に呼び出されましたからね」

「ほれ、これを飲んでみぃ」

「これは……?」


 ファーブルは何やら小汚い瓶を出してきた。

 何やら力こぶのような意匠だが、文字は古代文字のため判読できない。


「これは栄養ドリンクぢゃ」

「栄養ドリンク?」

「大量の無水カフェインとかブドウ糖が入った古代のエナジードリンクぢゃな」

「それを飲むと?」

「元気になる……がまぁぶっちゃけたところ、ほぼ糖分の効果ぢゃ」

「飲む前に言わなくても……そもそもこれ飲めるんですか?」

「軽く検査した限りは大丈夫ぢゃ」


 ファーブルがその瓶を投げてよこす。

 微妙にコントロールが下手だったのでササキはあやうく落とすところだった。

 しかしせっかく貰ったものなのでそのドリンクのフタを開けてみた。

 匂いは悪くない。

 思い切って一気に飲んでみた。

 ジュースのような、砂糖のような、何やら元気が出るような、そんな味だった。


「……なんか元気が出てきたかも」

「糖分で血糖値はあがるし、効果はあるぢゃろな」

 ファーブルが笑う。

「……お気持ち、ありがたく頂きました。じゃ行きますか」

「うむ」


 ササキは気密扉のスイッチを捻って開けた。

 ゆっくりと鉛の扉が開いていく。

 それは新たな探索の始まりだった。



「古代栄養ドリンク(気休め用)」


――材料 (1人分)

栄養ドリンク × 1


――作り方

1.フタを開ける

2.飲み干す


――コツ・ポイント

効果があると思い込んで飲みましょう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る