第14話 打ち上げ用ブロック飯

「さて無事に帰ってきてくれたところで打ち上げといこうか」

 機動捜査課大佐グレッグはいつになく、スキンヘッドの頭頂部まで血色をよくして上機嫌だった。


 古代に墜落したコロニーの探索、データ回収などの任務は非常にうまくいった。中央管理室からもAIが蓄積していたデータを大量に回収でき、また実地でもコロニー内に温存されていた植物性の家畜やそのままの姿の魚類などが確認できた。


 探索のための安全なルートもある程度確立できたためもっと本格的な探索隊が後日編成されるための予算も検討に登っているらしい。


「我々の仕事はここまでだがな、ハッハッハ、いやほんとうによくやった」

 グレッグは上機嫌だ。


 ここは機動警察などの公務員専用の保養施設だ。 

 例によって分厚い鉛の扉を開けて地下に降りた先にある。

 極地戦争前には高級官僚用のシェルターだったらしく、バーのようなものもある。 

 

 そこに退役兵のイーラン、学者でアンドロイドのファーブル、同僚の

のレナとササキが集合していたのだった。コロニー探索も済んだので打ち上げというわけだ。


 さっそくビールなどが運ばれてきたので料理を待っているところだった。

「草豚とかはしっかり研究して繁殖させてもらいたいものぢゃのう……もしかすると植物と同じぢゃったらセシウム137をカリウムの代わりに取り込んで大地を浄化とかもできるかもしれんぞ」

 ファーブルもアンドロイドのはずだがガブガブと水のようにウィスキーを飲んでいる。


 そのウィスキーは近所の地下集団農場で作られたもので度数も高い。

 レナはちびちびと古代酒のひとつであるショーチューを飲んでいる。


「それにしてもお前ら、妹が世話になったな」

 グレッグが話を向ける。

「……妹?」

「ん? 知らなかったか? イーランは俺の妹だ」

「……」


 あまり知らなくても良かった情報が蓄積される。


「長いこと会っていなかったがな……」

 オレンジジュースを飲みながらイーランがぼそりとつぶやく。酒は苦手なようだ。


 そうこうしている内にウェイターの手によって次々にプレートが運ばれてきた。

 そのプレートの上にはそれぞれ紙のような質感のランチボックスが乗っている。


「これよく工場とか公務員食堂で見る奴だけどぉ……」

 レナがしげしげとそのランチボックスを見つめる。

「今日は奮発してコースだぞ!」

 グレッグが嬉しそうに言う。

「コース?」

 ファーブルがぱかりとフタを開く。


 その中にはごろっとひとつブロックのようなものが入っている。それとセラミック製のナイフとフォーク。

「コース……?」 

 ササキも困惑する。

 そのブロックはちょうどレンガと同じくらいのサイズだろうか。見た目の質感はどうみても石かコンクリートだ。ただし細かく層状に色が入っている。色は非常にカラフルで、上から順番に緑、黄色、オレンジ……というような色が数センチごとに入っている。


「食べる順番を間違えるんじゃないぞ。緑のほうから食べるんだ」

 グレッグは何度も食べたことがあるのか嬉しそうにナイフとフォークでもっとも左の緑の層を切り分けて食べ始めた。


「……高級公務員用なのかしら……?」

 レナもおそるおそる緑の層を切り分ける。


 ササキもそれにならってフォークでカラフルなブロックの左端を押さえながらナイフでその部分を切り取った。思ったよりは奇麗にはがすことができた。

 

 切り取った緑の層をさらに小分けにしてフォークで口に運んでみる。

 意外にみずみずしい触感。

 さらりとほぐれ繊維質と、妙な新鮮さと水気が感じられた。


「おぉ……」

「これは………」

「サラダぢゃな」


 間違いなくそれはサラダの味だった。

「ワシもこのタイプは食べたことがないが……確かにレタスっぽい味でドレッシングもよく染みておる……どうやってこの触感を実現しとるんぢゃろうな」

「え……案外おいしい……」レナが感動している。


「だろう? どんどん食べるんだ。これは部署によって配給される数が決まっている高級品だ」

 グレッグは楽しそうに次の層にとりかかっていた。


 次の層は何やらコロニーの巨大水槽で食べた魚と同じようなサシミか、マリネ的な味がする。それと柑橘系の風味。魚介系のプレートらしい。


「これもなかなかぢゃな」

「……」

 みるとイーランも無言でナイフとフォークを動かしているが、心なしか楽しそうな表情だ。


 さらにその次はおそらく豚肉とレバーのパテ。

 パンのような風味も追加されている。


 かなりちゃんとしたコースだった。

「どうだ? ササキ中尉」

 グレッグは得意そうだ。

「……正直びっくりしました。 見た目と違ってかなり美味しいです」

「だろう?」


「ふーむ……ひとつひとつはかなりしっかりした味ぢゃなぁ」

「正直……中央管理室のコースより美味しいかも……こんな見た目なのに……どうみてもレンガなのに……」レナがぶつぶつという。


 メインはちゃんとしたヒレ肉のステーキの味がする。

 香ばしさまで再現されており温度感まであった。

 以前、調査中に食べた「ウシ肉ステーキ」のような味わいだ。

 

 このブロック飯はこれまでの調査をまるで振り返るかのような出来の食事だった。

 ササキはデザートのアイスクリームのような層を口に放り込むと、それを蒸留酒で流し込んだ。正直悪くなかった。


 ササキはふっと微笑を浮かべた。

「これぞディストピア飯」


 意外に楽しい打ち上げはその日の夜遅くまで続いたのだった。




「配給用ブロック飯(饗応用)」


――材料 (4人分)

コース料理ブロック × 4


――作り方

1.ブロックを1つ取り出す

2.皿などにブロックを置く

3.切って食べる


――コツ・ポイント

食べる順番を間違えるととてもおいしくないです。






 






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