第13話 中央管理室のコース料理

 退役兵ベテランのイーランと合流した後は調査活動ははかどった。

 その後、一行は草豚を数頭捕まえてベーコンなどにし、保存できるようにして最終目的地の中央管理室へ向かった。


 直接向かう通路は壊れて崩壊していたため、外殻付近の通路をとおり1週間ほどかけて遠回りした上で、ようやく中央管理室に到達した。

 

 中央管理室はこの宇宙コロニーの全ての制御を行っていたコントロールルームで、ここの記録を持ち帰ることで古代コロニーの調査活動は完了というわけだ。


 分厚い扉はひしゃげていたのでイーランが爆発物を仕掛け、それを吹き飛ばした。

 

「ここが中央管理室ね」

 レナがきょろきょろと室内を見回す。

 天井は高く、思ったよりも広かった。

 可視光をとりいれた窓もあり、そこからコロニーの内部構造が一望できた。

 

 草木が生い茂る場所、人間が歩くのに向かない場所、そして今回は危険物が多いので通らなかったが街の廃墟などがシリンダー状のコロニーに広がっていた。


「こうしてみると壮観ぢゃのぅ」

 ファーブルも窓からコロニーをながめる。


「それよりも記録装置などはどこにあるか分かるか?」

 イーランも周囲を見回す。

 みたところ円形の部屋でその全周が窓になっている。

 窓の傍にデスクがあり、いくつか古代の情報端末が並んでいるのが見える。


「とりあえずワシはこのあたりを調べてみるのぢゃ」

 ファーブルはてきぱきと古代の情報端末を調べはじめた。

 一部は動いているようだ。

 確かに重力制御や太陽光を模した照明などは自律的に稼働しているようだった。


 レナはファーブルの仕事を覗き込んでいる。


「ササキ、こちらに来てくれ」

 イーランがササキを呼ぶ。

 

「どうやらここから下に降りることができるようだが……」

「ほんとうだ、エレベーターみたいですね」


 とってつけたような円形の継ぎ目が床の上に存在した。

 イーランが適当にそのあたりを触ると、がくんと床が下がる。


「おっと!」

 イーランが飛びのく。

 しかし床は重力制御されているのかゆっくりと降りていく。

 

「何があるんでしょうね?」

 ササキはライトで穴の中を照らしてみた。

 もう一階層存在するようだ。せいぜい3mほどの深さだ。

 

 ライトで照らすと下の階層が浮かび上がる。

 どうやら下の階層も円形の部屋になっているようだが、違う点としては可視光をとりいれる窓は少なく薄暗いこと。次にテーブルがいくつか置いてあるようだった。


「食堂か……休憩室ですかね」

「降りてみるか」

「はい」


 ササキも荷物からロープを取り出し、床に端を接着した。

 ササキが解除しない限りこの接着はとれない。

 

 ロープを下にたらす。

 イーランは器用に両手で掴みながらひょいひょいと降りて行った。

 ロープも1本しかないので懸垂下降ではなく原始的な方法だ。


 ササキもロープを伝う訓練は受けていたのでイーランに続く。

 

「……やはり食堂だな」

「ですね」


 空気清浄機のようなものが動いているのか、埃などは存在しなかったが、そこらのテーブルの上にはナイフ、フォーク、ハシなどのカトラリーがまとめて置かれている。


「……そろそろ草豚も飽きてきたところだ」

「ですね、食べ物がないか探してみましょうか……」


 イーランとササキは探索を開始した。

 とはいえ狭い部屋なのですぐに見つかった。


「おぉ……これは……」

 イーランが驚きの声をあげる。

「どうしました?」

「どうやら事故の日は会食が予定されていたようだな……コース料理のようなものがあるぞ」

「えぇっ?」


 イーランがこの階層の床下貯蔵庫を発見していた。

「どんな感じです?」

 ササキが近寄る。

 どうも以前見つけた"瞬間おにぎり"のような感じで、フィルムが貼られた平皿、スープ皿のようなものが、10人分ほどコンテナの中に積み込まれていた。ここにコース料理と思われる料理が保管されていたようだ。


「これはフィルムをはがすと瞬時に食べられるようになるやつですね、たぶん」

「うん……そのようだ」

「とりあえず……上の人たち呼びましょうか」

「……だな」


 高いところは苦手なのぢゃあーと嫌がるファブルをロープで吊り降ろし、レナたちと合流した。あれだけ嫌がっていたのにテーブルに乗ったフィルムが貼られた皿の数々をみてファーブルは目を輝かせた。

「これは……なかなかぢゃな!」

「やはり瞬間おにぎりのような?」

「中身はそれ以上ぢゃな、正式な会食などを想定した幹部や客人用のコース料理パッケージぢゃ」


「とりあえず食べてみましょうか。そろそろお昼時だし」とレナ。

「ウム」


 4人がけのテーブルに座った。もちろん本来は順番にサーブされるところだが今回は、一通り並べて、順番に開けてみることとなった。


「まず一皿目……これかな?」

 レナがフィルムを剥がずと、なかから湯気をたてた肉料理が出現した。古代に生息していた鴨か何かのローストのようで香ばしい匂いが鼻孔を刺激する。


「ざんねーん! それはメイン料理ぢゃな!」

「えぇー……でもまぁ美味しそうだからいいか?」とレナ。

「では私はこちらを」

 イーランがフィルムをはがした皿には、サーモンらしき魚のマリネ、オリーブ、ちょっとした野菜が入っていた。


「オードブルぢゃな、正解!」

「これ見た目じゃわからないわよねぇ……」レナがこぼす。たしかに皿の形からだけでは判断つかない。


「では俺はこれを」

 ササキは深めの皿のフィルムをはがした。

 こちらは白っぽく冷たい液体に満たされている。

「それはイモか何かのポタージュのようぢゃな?」

 

 しばらく色々と試しているうちにコース料理の皿がどれがどれかだいたいわかるようになった。


「え、この鴨? 鳥の肉美味しい……」レナがうっとりと目をほそめる。

「この魚のマリネもなかなかだ」イーランも続く。

「この貝の白ワイン蒸しですかね? 旨いですよ」


「うーんなかなかぢゃな……デザートの何かの果実のシャーベットもなかなかぢゃった……」ファーブルがぺろりとデザートのオレンジ色のシャーベットをたいらげる。


 そうして一同は久々にバラエティ豊かな「外食の味」を楽しんだのだった。

 

「会食用コース料理のパッケージ(中級幹部用)」

――材料 (4人分)


オードブルパッケージ × 4

季節の野菜のジュレ寄せパッケージ ×4

貝の白ワイン蒸しパッケージ ×4

いものポタージュスープパッケージ ×4

鴨のローストまたはフィレ肉のステーキパッケージ ×4

デザートパッケージ ×4


――作り方


1.パッケージのフィルムをはがす

2.皿をサーブする(断熱仕様のため肉料理なども安全にサーブしていただけます)

3.食べる


――コツ・ポイント

食べる順番を間違えないようにしましょう。

中級幹部用のためカトラリーは最小限です。


 

 

 



 


 

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